高速バス業界で、乗客による新たな迷惑行為「相席ブロック」が深刻な問題となっています。これは、一人の利用者が隣り合う二つの座席を同時に予約し、出発直前に片方をキャンセルすることで、見知らぬ他人が隣に座ることを防ぐ行為を指します。システム上は「満席」と表示されるため、本来乗車できたはずの利用者が予約できなくなり、交通手段を必要とする人々から機会を奪う結果を招いています。
高速バス業界で問題視されている「相席ブロック」の概念図
「相席ブロック」の実態と業界への影響
この「相席ブロック」行為は、2024年6月に北海道の沿岸バスが公式SNSで「意図的に相席をブロックする行為は絶対におやめください」と注意喚起したことをきっかけに、全国的な注目を集めました。九州急行バスも同時期、福岡~長崎間の高速バス「九州号」で同様の行為を確認し、「悪質な予約妨害行為」であるとSNSで公表。不正な決済や、予約のみで乗車しないケースも複数報告されており、バス会社にとっては深刻な運営妨害および機会損失となっています。
この問題の背景には、長時間移動を伴う高速バスにおいて、見知らぬ他人と隣り合わせになることへの乗客の心理的抵抗があります。特に女性乗客からは、隣に男性が座ることに不安を感じるという声も聞かれ、プライバシーや安心感を求める心理が「相席ブロック」という行動を生む一因となっています。しかし、個人の快適性を優先するこれらの行為は、結果的に業界全体の健全な運営を脅かし、本当に移動を必要とする人々の移動手段を奪うという看過できない事態を引き起こしています。
相席ブロックが生じる背景と問題の根源
安価なキャンセル料が問題を助長する構造
「相席ブロック」が横行する最大の要因は、高速バスのキャンセル料が非常に安価に設定されている点にあります。多くのバス会社では、払い戻し手数料を100円前後に設定しており、当日キャンセルでも金額が変わらないケースが少なくありません。JRバス関東では110円から運賃の最大50%までと路線で異なりますが、沿岸バスでは電話予約の取消料は無料、ウェブ予約でも210円です。ホテルの当日キャンセル料が宿泊料の50~100%であることを踏まえると、バスの料金設定は利用者にとって「負担が軽い」と感じさせ、不正な利用を助長する構造となっています。
この安価な取消料の背景には、1980年代の鉄道間競争の激化や、標準運送約款で普通乗車券の払い戻し手数料を「100円以内」と定めた歴史があります。近年、バス運賃は上昇傾向にあるものの、取消料は据え置かれたままであるため、運賃に対する取消料の相対的な比率が低くなり、悪用されやすい構造が生まれています。
各社の対策と今後の展望
こうした課題を受け、各バス会社では対策の検討・実施が進められています。例えば、西日本鉄道が運行する高速バス「はかた号」では、2024年12月20日からキャンセル料を段階的に引き上げることを決定しました。これまでは当日でも110円でしたが、新制度では、11日前~9日前は20%、8日前~2日前は30%、前日以降は50%と、より厳格な料金体系へと改められます。
これらの取り組みは、「相席ブロック」という迷惑行為への効果的な抑止力となることが期待されており、他社にとっても有力なモデルケースとなるでしょう。高速バス業界が利用者の利便性を保ちつつ、健全な運営を維持するためには、キャンセルポリシーの見直しを含めた構造的な対応が不可欠であり、今後さらなる対策の進展が注目されます。