ふくらはぎのサイズ変化で筋量減少を早期発見?新研究が示す簡便な指標

中年期以降、加齢とともに進行する骨格筋量の減少は、高齢者における転倒リスクを高め、さまざまな疾患の発症にもつながるため、早期の発見と予防が極めて重要視されています。しかし、筋量の測定には専門的な機器が必要な場合が多く、より手軽な評価方法が求められていました。この度、ふくらはぎ周囲長のわずかな変化が、筋量の変化を簡易的に評価できる指標となる可能性を示唆する画期的な研究結果が報告され、注目を集めています。

ふくらはぎ周長が示す筋量変化のサイン

これまで、ふくらはぎ周囲長は高齢者の栄養状態や骨格筋量の簡便な指標とされてきましたが、その経時的な変化と実際の筋量変化との関連を直接検証した縦断研究は存在しませんでした。今回の研究は、公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏と早稲田大学スポーツ科学学術院の谷澤薫平氏らによって行われ、その詳細は「Clinical Nutrition ESPEN」に2025年5月29日掲載されました。

研究では、年齢や肥満の有無に関わらず、ふくらはぎ周囲長の変化が筋量の変化と強い正の相関を示すことが明らかになりました。これは、ふくらはぎが細くなることが、筋量減少のサインである可能性を示唆しており、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)の早期発見・予防に繋がる新たな道を開くものです。

ふくらはぎの周長変化で筋量減少を早期発見する研究イメージふくらはぎの周長変化で筋量減少を早期発見する研究イメージ

研究の詳細と対象者

この縦断研究では、2015年3月から2024年9月の間に計2回の「WASEDA’S Health Study」に参加した40歳から87歳の日本人成人227名(男性149名、女性78名)を解析対象としました。参加者の平均追跡期間は8.0±0.4年です。

ふくらはぎ周囲長は立位で左右それぞれ2回ずつ計測され、その平均値が解析に用いられました。筋量の測定には、専用機器である二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)が用いられ、両腕両脚の筋量(四肢筋量)が測定されました。これらのデータを用いて、ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化の関係が詳細に解析されました。

解析の結果、ベースラインから追跡期間終了までのふくらはぎ周囲長と四肢筋量の平均変化量は、それぞれ-0.1±1.2cmと-0.7±1.0kgでした。ふくらはぎ周囲長と四肢筋量の変化量は、男性および女性の両方で強い正の相関を示し、ピアソンの相関係数は0.71という高い値を示しました。さらに、対象者を年齢(中年層:60歳未満、高齢層:60歳以上)および体脂肪率(非肥満、肥満)で二分したサブグループ解析においても、同様に強い正の相関が確認されました(相関係数rは0.67から0.72の範囲)。このことは、この関連性が幅広い層に適用できる可能性を示唆しています。

健康寿命延伸への貢献と研究の限界

本研究は、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量変化の関連を世界で初めて縦断的に示した画期的な研究です。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長のモニタリングを通じて、誰でも簡便に自身の筋量減少に気づける可能性が示唆されたことは、サルコペニアの早期発見・予防に大きく貢献する知見と言えるでしょう。筋量や筋力の低下はQOL(生活の質)の低下を招きますが、適切な介入により改善は可能であり、今回の研究結果は健康寿命の延伸に向けた重要な一歩となります。

一方で、本研究にはいくつかの限界点も指摘されています。解析対象が早稲田大学の卒業生とその配偶者に限定されており、日本人全体の人口を代表するものではない可能性があります。また、サブグループ解析においては、対象者数が少なかったことも限界として挙げられています。今後の研究では、より多様な集団を対象とした検証が期待されます。

参考文献