2025年7月20日に投開票が行われた参議院議員選挙において、参政党は14議席を獲得し、大きな注目を集めました。この躍進には強い追い風が吹いていた一方で、同党に対する激しい批判の嵐も止むことはありません。「SNS選挙という罠」(平凡社新書)の著者である文筆家の物江潤氏は、参政党の議員や支持者が孤立し先鋭化することを防ぎ、党の成熟化を促すためには、建設的な「批判的提案」が社会にとってより良い選択となると指摘しています。
参政党が直面する「極論・暴論」という批判
実際、参政党が批判されるには明確な理由があります。その象徴的な存在として挙げられるのが、「ワクチンは殺人兵器」といった極論・暴論を展開してきた松田学氏です。同党は松田氏に対して適切な処分を行うどころか、先の参院選で公認を与え、結果として松田氏は当選を果たしました。また、神谷宗幣代表が「ワクチンは殺人兵器」という発言に対し、「あれは、ちょっと口が滑ってますよね、僕は言いすぎだと思います」と対談で語った際の認識の軽さには、懸念を禁じえません(笑下村塾 2023年9月4日「『反ワクチン』『排外主義』と噂の参政党とはどんな政党なのか?副代表で事務局長の神谷宗幣さんに聞いてみた」より)。
2025年7月20日、メディアのインタビューに応じる参政党の神谷宗幣代表。参院選での躍進後、党の今後が注目される中で発言する様子を捉えたもの。
もちろん、こうした非科学的な主張や陰謀論めいた発言は、他の政党の政治家からも見受けられ、参政党に限った話ではありません。しかし、参政党においてはその主張の頻度が明らかに高いため、特に批判が集中する傾向にあります。筆者である物江氏は、参政党に対しては明確に批判的・否定的な立場を取りつつも、ここでは一方的な非難に終始するのではなく、建設的な批判的提案を試みています。これは、参政党を危険視する人々と、神谷代表および穏健な支持者たちの双方にとって、互いに利益のある提案となると考えられます。
「参加型民主主義」の光と影:強みと課題
参政党は、「参加型民主主義」を掲げ、党員が積極的に政策や公約づくりに関与できる独自の仕組みを構築してきました。SNSの積極的な活用と相まって、迅速に民意を汲み取り、それを公約や政策に落とし込めるという強みは、今回の参院選での大躍進に繋がったと推察されます。
しかし、民意を吸い上げる過程においては、暴論や極論が混ざりやすいという側面も否めません。実際、今回の選挙戦においても、複数の候補者の発言が度々問題視されました。同党が構想する「新日本憲法」をはじめとした政策や公約は、「あまりにも稚拙である」として、保守派・右派から革新派・左派の双方から強い批判が寄せられています。
参政党の「成熟化」に向けた三つの批判的提案
このような現状に対し、物江氏は参政党の「成熟化」を促すため、以下の三つの提案を行っています。
1. 不適切な発言者への厳正な対処
一つ目の提案は、不適切な発言をした党員に対する厳正な処罰の実施です。特に松田学氏に関しては、党として公の場で自身の考えの修正を求める必要があります。もし議員や党員がその撤回や修正を拒否するようであれば、離党勧告などの断固たる対応を取るべきだと提言されています。これは、党全体の信頼性と責任を確保するために不可欠な措置と言えるでしょう。
2. 専門家による政策チェック体制の確立
二つ目の提案は、専門家によるチェック体制の構築です。党幹部や党員が策定した公約や政策に対し、自然科学、公共政策、政治学といった多様な専門分野の識者が検証を行うことで、極論や暴論が政策に混入するのを防ぐことを目的とします。
具体的には、参政党から独立した「政策検証会議」のような組織を設置し、党が作成した政策や公約に対して、専門家からの評価やアドバイスといったサポートを受けるという構図が考えられます。紙幅の都合上、詳細な説明は割愛されていますが、「コンセンサス会議」のような対話的手法を参考にするのも一案とされています。この仕組みでは、専門家が一方的に結論を導くのではなく、参加者が主体的に合意形成を目指す構造となっているため、「参加型民主主義」を掲げる参政党の理念とも高い親和性があると考えられます。
3. 過去との明確な決別宣言
三つ目の提案は、「過去との決別」です。神谷宗幣代表や党所属の政治家が、「我々は未熟であった」「デマや荒唐無稽な議論を拡散してしまった」と公に表明し、過去からの決別を明確に宣言することの重要性が強調されています。
その際、前述の「政策検証会議」のような独立した組織が、過去の問題発言や極論・暴論を選定した上で公表する必要があります。そしてそれらの問題に対し、参政党が現在どのような認識を持っているのかを外部に明示することで、透明性と信頼性の回復に繋がると提言されています。これは、党が過去の過ちを認め、未来に向けて健全な成長を遂げるための重要なステップとなるでしょう。
結論
参議院議員選挙での躍進は、参政党にとって新たな段階への移行を意味します。しかし、その成長を持続可能で健全なものとするためには、これまでの批判と真摯に向き合い、自らを律する姿勢が求められます。今回物江潤氏が提示した三つの批判的提案は、党が「成熟化」し、社会にとってより建設的な役割を果たすための重要な指針となるでしょう。これらの提案を実行に移すことで、参政党が有権者の信頼を得て、日本の政治言論空間に健全な貢献をしていくことが期待されます。
参考文献
- 物江潤『SNS選挙という罠』平凡社新書
- 笑下村塾 (2023年9月4日) 「『反ワクチン』『排外主義』と噂の参政党とはどんな政党なのか?副代表で事務局長の神谷宗幣さんに聞いてみた」
- 共同通信社 (写真提供)
- Yahoo!ニュース 記事
- PRESIDENT Online 記事