『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)は、1990年から放送が始まったオムニバス形式のドラマ番組です。ストーリーテラー役のタモリさんが案内人となり、ミステリー、サスペンス、ファンタジー、シュールコメディなど、多様なジャンルで描かれる“奇妙な物語”が多くの視聴者を魅了してきました。このような、完全なホラーとは異なる、ミステリーやサスペンス、ファンタジーの要素を内包した「不思議系ブラック」とも称される独特の恐怖は、古くから漫画作品にも見られる構成です。
ミステリアスな魅力を秘めたストーリーテラー的なキャラクターが誘う、予測不能な恐怖。本記事では、そんなオムニバス形式で描かれた「不思議系ブラック」な漫画作品の中から、特に悲惨な末路をたどった犠牲者たちに焦点を当て、その独特の世界観と教訓を紐解いていきます。
『笑ゥせぇるすまん』とは?喪黒福造が埋める「ココロのスキマ」
藤子不二雄A氏が手がけた不朽の名作『笑ゥせぇるすまん』は、黒いスーツと大きく赤い唇が特徴的な謎のセールスマン「喪黒福造(もぐろ ふくぞう)」が主人公のオムニバスストーリーです。彼は悩める現代人の“ココロのスキマ”を埋めるべく、驚きのサービスを提供します。
2025年7月18日からはPrime Videoにて実写ドラマ版の配信が始まり、主人公の喪黒役をお笑い芸人の秋山竜次さん(ロバート)が演じることでも大きな話題を呼びました。喪黒と交わした約束を破った者に対し、右手の人差し指を突き出して「ドーン!」のかけ声とともに破滅へと導く展開がおなじみです。しかし、その契約違反者には善人も含まれ、彼らがひどい目に遭う後味の悪いエピソードも少なくありません。
『Y氏の隣人』Kindle版表紙:笑ゥせぇるすまんや世にも奇妙な物語に通じる不思議系ブラック漫画
サラリーマンを襲った理不尽な悲劇:「長距離通勤」エピソードの詳細
『笑ゥせぇるすまん』の数あるエピソードの中でも、SALE44「長距離通勤」は、喪黒福造と関わってしまったがために、とてつもない悲劇に見舞われる登場人物を描いています。主人公は、片道4時間の長距離通勤をしていたサラリーマンの長井道範です。田舎の一軒家を購入したため、飲み会の誘いも終電を理由に断り、真夜中に帰宅するという過酷な日々を送っていました。
ある日、通勤電車で偶然知り合った喪黒から、会社から徒歩3分にある高級マンションを部屋代無料で使わせてもらえることになります。ただし、その条件は「使っていいのは平日のみで、日曜と祭日は自宅に帰ること」でした。長距離通勤から解放された長井は仕事にも集中できるようになり、社内の人との夜の付き合いも積極的に参加するようになります。
ところが、ある日酔っぱらって高級マンションに帰宅した長井を待ち受けていたのは、廃墟のような寂れた部屋でした。喪黒は「今日は祭日ですよ」と告げ、約束を破った長井に「ドーーーン!」が炸裂します。その後、会社では長井の無断欠勤が続き、同僚たちが心配する声が上がりました。そして女性社員が長井のロッカーを開けると、そこにミイラ化した長井の亡骸が入っており、腐臭を漂わせていたのです。仕事熱心な善良な会社員が、祭日を見落としただけで命まで奪われるという、あまりにも残酷かつ理不尽な結末は、多くの読者に深い恐怖と衝撃を与えました。
「働きアリ」の末路:『笑ゥせぇるすまん』が描く現代社会の闇
この「長距離通勤」のエピソードには、さらなる皮肉が込められています。アニメ版では、長井の飼育していたアリが群がって彼の遺体が発見される描写があり、まさに「働きアリ」のように会社に尽くした男にとって、あまりにも残酷で皮肉な末路だったと言えるでしょう。
ロバート秋山竜次が演じる実写版「笑ゥせぇるすまん」喪黒福造のリアルな姿
『笑ゥせぇるすまん』は単なるホラー漫画ではなく、人間が持つ“ココロのスキマ”や欲望、そして些細な油断が招く悲劇を通して、現代社会の不条理や働く人々の孤独を鋭く風刺しています。喪黒福造の「ドーン!」が突きつけるのは、私たち自身の心の中にある弱さや、社会の理不尽さへの警鐘なのかもしれません。
結論
『笑ゥせぇるすまん』、特に「長距離通勤」のエピソードは、喪黒福造の容赦ない恐怖と、人間心理の脆さを浮き彫りにします。些細な約束違反が招く想像を絶する悲劇は、読者に強いインパクトを与え、後味の悪さを残すことで作品の記憶を深く刻み込みます。この物語は、単なるエンターテインメントに留まらず、現代社会に生きる私たちが直面するストレスや、時に見過ごしてしまう心の隙間について、深く考えさせる示唆に富んだ作品と言えるでしょう。喪黒福造が私たち自身の“ココロのスキマ”を覗き込んでいるかのような、奇妙で不条理な体験は、今後も多くの人々に語り継がれていくはずです。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 『世にも奇妙な物語』に似た「不思議系ブラック」漫画の悲惨な犠牲者。苦労人を襲った、まさかの悲劇 | 双葉社THE CHANGE (FUTABASHA THE CHANGE)