日米経済協定で浮上する航空機大量購入の「実情」:ボーイング機100機発注の背景

米国ホワイトハウスは7月23日(現地時間)、トランプ大統領が日本との新たな経済協定を締結したと発表しました。この協定には、米国製民間航空機や防衛装備品の購入に関する大型合意が含まれています。しかし、日本の主要航空会社がここ数年で既にまとまった数のボーイング機を発注済みであることから、今回の「合意」は、当時の安倍政権が大幅に譲歩した側面が強いとも指摘されています。

日米経済協定における米国製ボーイング民間航空機100機の発注合意を示すイメージ日米経済協定における米国製ボーイング民間航空機100機の発注合意を示すイメージ

大手航空会社によるボーイング機大量発注の現状

今回の経済協定において、日本は米国製民間航空機100機の購入契約を約束しました。防衛分野では、年間数十億ドル規模の米国防衛装備品の追加購入が明記され、インド太平洋地域における相互運用性と同盟の安全保障強化が目的とされています。

国内最大の航空会社である全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD)は、今年6月のパリ航空ショーで、ボーイング787-9型機23機、737 MAX 8型機(確定18機、オプション4機を含む)最大22機を正式発注し、合計で最大45機となりました。

一方、日本航空(JAL/JL)は昨年7月のファンボロー航空ショーで、787-9型機を最大20機(確定10機、オプション10機)正式発注。これとは別に、傘下のZIPAIR(ジップエア/TZP/ZG)向けに787-8型機2機を追加発注しています。JALはまた、現行の737-800型機の後継として737 MAX 8型機38機を国内線に導入する見通しで、JALの発注総数は3機種合わせて最大60機(確定50機、オプション10機)に上ります。

国内大手2社の合計では、確定発注が91機(ANA 41機、JAL 50機)、オプションを含めると最大105機(ANA 45機、JAL 60機)となります。今回の「購入」がこれらの既存のオプション契約を含まない場合、新たに国内の航空会社が100機を発注する必要が生じます。新型コロナウイルス感染症による国内出張需要の大幅減や、10年に一度とされる感染症による世界的な航空需要の蒸発など、航空会社は極めて変動性の高い事業環境に置かれており、日本政府がこうした航空業界の実情を正確に理解しているかは疑問視されています。

スカイマークの737 MAX導入計画とボーイングの品質問題

スカイマーク(SKY/BC)もまた、ボーイング737 MAXシリーズのうち、標準型の737 MAX 8型機13機と胴体長が最長の737 MAX 10型機7機の計20機を導入予定で、2026年3月から受領が始まる見込みです。この20機のうち、購入機は737 MAX 8と737 MAX 10がそれぞれ7機ずつの計14機で、残りの6機はリース導入となります。大手2社とスカイマークの国内3社を合計すると、確定発注機数は105機(ANA 41機、JAL 50機、SKY 14機)に達します。

ボーイング社は、787型機や737 MAX型機、開発中の次世代大型機777X型機において、度重なる品質問題や納入遅延、さらには737 MAXの2度の墜落事故、777Xの開発遅延といった課題を抱えており、世界中の航空会社から早期引き渡しを強く求められています。こうした状況下で、トランプ政権が日本側に大量発注を約束させた以上、ボーイングが引き渡し枠(スロット)を優先的に割り当てるなどの対応が求められますが、長期にわたる交渉経緯から見ると、一般的な商慣習が通じるかは不透明です。

日米経済協定の多角的な合意内容

今回の合意では、民間航空機や防衛装備品の購入以外にも、5500億ドルを超える新たな日米間の投資枠組みの用意、米国輸出品への市場アクセス拡大、日本からの輸入品に対する基準関税率15%の適用なども盛り込まれました。

また、米国国内の産業基盤再建に向けて、日本からの投資を活用する計画も発表されています。対象分野には、液化天然ガス(LNG)や高度燃料、電力網の近代化などのエネルギーインフラと生産、設計から製造に至る半導体の製造と研究、重要鉱物の採掘・加工・精製、医薬品や医療用品の生産、商業・防衛用を含む造船などが挙げられています。

農業・食品分野では、日本が米国産米の輸入を75%増やすことが求められ、トウモロコシや大豆、肥料、バイオエタノール、持続可能な航空燃料(SAF)を含む80億ドル相当の米国産品を購入することも明記されました。エネルギー分野では、米国のエネルギー輸出を大幅に拡大するとともに、アラスカ産LNGに関する協議が日米間で進められていると報じられています。

自動車・工業製品や一般消費財の分野では、米国製自動車・トラックに対する日本側の長年の制限撤廃が求められており、米国の自動車規格が日本で初めて承認される見通しです。

まとめ

今回の日米経済協定は、日本が米国製航空機や防衛装備品を大量購入する合意を軸としつつ、農業、エネルギー、半導体、自動車といった多岐にわたる分野で新たな経済連携を強化するものです。特に航空機購入に関しては、国内大手航空会社がすでに相当数のボーイング機を発注済みであるため、その実情と今後の追加発注の可能性が注目されます。ボーイングが抱える品質問題や納入遅延の状況も鑑み、今回の合意が日本の航空業界および経済全体にどのような影響を与えるか、今後の動向が注視されます。


参考資料: