佐賀県伊万里市は、古くから伊万里湾での漁業を中心に発展し、江戸時代に生まれた陶芸品「伊万里焼」の名産地として知られています。文化的で自然豊かなこの静かな街で、6月26日、白昼堂々と凄惨な強盗殺人事件が発生しました。この突然の悲劇は地域社会に深い衝撃を与え、海外での活躍も期待された一人の日本語教師の命を奪いました。
静かな住宅街で起きた凶行:事件の詳細
事件は6月26日午後4時20分頃、伊万里市内の閑静な住宅街で発生しました。日本語教師の椋本舞子さん(40)と70代の母親が自宅にいたところ、突然、20代の外国人風の男性がインターホンを鳴らしました。男はマスク姿で、黒い半袖シャツに茶色いズボンを着用していました。
玄関を開けた椋本さんの母親に対し、男は片言の日本語で「オカネ」「財布ミセロ」などと金品を要求。現金1万1000円を脅し取った後、男は自宅内に侵入し、手に持っていたナイフで椋本さんと母親を次々に切りつけ、そのまま逃走しました。母親は負傷しながらも隣家へ助けを求め、事なきを得ましたが、自宅に残された椋本さんは執拗に襲われ、命を落としました。
容疑者逮捕と事件の背景
事件後、椋本さん宅から約50メートル離れた寮に住む技能実習生のダム・ズイ・カン容疑者(24)が被疑者として浮上。佐賀県警は27日にカン容疑者を任意同行し、同日深夜に強盗殺人容疑で逮捕しました。
捜査関係者によると、家には荒らされた形跡があったものの、今回の事件は闇バイトや匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による犯行ではなく、単独犯と見られています。また、亡くなった椋本さんとカン容疑者の間に面識はなかったとされ、県警は現在、事件の動機解明に全力を挙げています。
佐賀・伊万里の強盗殺人事件で逮捕された技能実習生ダム・ズイ・カン容疑者と、殺害された日本語教師の椋本舞子さん。
景徳鎮で教鞭を執った“国際派”日本語教師・椋本舞子さん
亡くなった椋本舞子さんは、中国江西省景徳鎮市にある「景徳鎮陶瓷大学」で日本語講師を務めていました。同大学のウェブサイトには彼女の顔写真とプロフィールが掲載され、2007年に佐賀大学を卒業後、2019年に同大学文化伝播学院の外国人教師として採用された経歴が紹介されています。
景徳鎮市は伊万里市と同様に陶芸が盛んな街として知られ、中国国内でも有数の名産地です。自然豊かな点も共通しており、椋本さんは単身この地で日本語教育に情熱を注いでいました。昨年撮影された中国メディア『新華社』のインタビューでは、流暢な中国語で景徳鎮市で働く理由について語っていました。
彼女は大学時代に「外国語を学ぶなら中国経済が発展している中国語が良い」と勧められたこと、そして漢字への興味から第二外国語として中国語を学んだと明かしています。また、友人から景徳鎮陶瓷大学での生活や仕事の楽しさを聞き、日本語教師として働くことを決意したと述べていました。
伊万里市の広報誌によれば、椋本さんは中学1年生で「中学校英語暗唱大会」の優秀賞を獲得するなど、学生時代から優れた語学力を持っていました。インタビューでも「(陶芸をする)外国人の友達がたくさんいて、充実した生活を送っている」と語る通り、公私にわたり国際交流に積極的な“国際派”の女性でした。
終わりに
佐賀県伊万里市で起きた強盗殺人事件は、地域に深い悲しみと衝撃を与えました。海外で活躍し、国際交流の架け橋となるはずだった才能豊かな日本語教師が、突然の凶行によって命を奪われたことは計り知れない損失です。警察は現在、事件の動機解明に全力を挙げており、その全容解明が待たれます。