日米貿易交渉の裏側:駐米大使の外交戦略と成果、そして韓国の対照的な動き

今月22日、日米間の通商交渉が最終段階を迎える中、ドナルド・トランプ元米大統領との会談の場には、赤沢亮正経済再生担当相に並び、山田重夫駐米日本大使の姿があった。近年の世界的な関税問題が激化する中で、米連邦政府、議会、さらには各州政府との広範な外交交渉を指揮してきた同大使は、今回の交渉においても重要な「援護射撃」を果たした。日本が予想よりも早期に交渉を妥結できた背景には、肩書きを問わず米国側の要人たちと積極的に交流し、強固な人脈を築いてきた山田大使の「最前線のプレーヤー」としての役割が極めて大きかったと評価されている。

日本の「最前線のプレーヤー」:駐米大使の戦略的役割

山田大使は、自ら20を超える米国の州を巡り、日本からの対米投資や経済協力への強い意欲を直接アピールしてきた。直近では今月14日、日系企業の代表団と共にカンザス州を訪問し、クリーンエネルギー、バッテリー産業、サプライチェーン(供給網)拡大といった分野での具体的な協力意向を強調した。同様の動きはネブラスカ州でも見られ、日米間の関税合意が報じられるや否や、共和党所属のジム・ピレン同州知事からは「我が国の歴史的な瞬間だ」という祝辞が寄せられた。ネブラスカ州やカンザス州は、共和党が強い「レッドステート」として知られている。

山田大使の精力的な活動は、ジョン・ヒューステッド上院議員やデービッド・マコーミック上院議員など、トランプ氏が特に重視する「ラストベルト(衰退した工業地帯)」選出の要人たちとの幅広い接触にも及んだ。こうした地道な外交努力が、日本製鉄によるUSスチール買収承認といった具体的な経済的成果にも繋がったと見られている。

山田重夫駐米大使と趙賢東駐米大使、日米韓の外交戦略を比較山田重夫駐米大使と趙賢東駐米大使、日米韓の外交戦略を比較

韓国における駐米大使の交代劇と外交的混乱

一方、同時期に深刻な関税問題を抱えていた韓国では、現政権が「前政権で任命された人物」である駐米韓国大使を急遽帰国させるという対照的な動きを見せた。先月、「2週間以内に帰国せよ」との通知を受けた当時の趙賢東(チョ・ヒョンドン)大使は、米国側関係者への離任挨拶もままならないまま、慌ただしく帰国の途に就いた。韓国の政権交代に伴う人事刷新はある程度予測されることではあるものの、喫緊の関税交渉が進行している最中に駐米大使を急いで交代させるのが、果たして最善の策であったかには疑問が残る。

後任の駐米韓国大使は未だ任命されておらず、現在、駐米韓国大使館は政務公使が大使代理を務めるという異例の事態が続いている。趙賢東前大使の離任以降、通商・外交ライン間の情報共有が滞り、大使館内部ではかなりの混乱が生じていると報じられている。

外交における継続性と柔軟性の重要性

現政権と同様に、大統領職引き継ぎ委員会の活動期間なしに発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、前任の朴槿恵(パク・クネ)政権で任命された安豪栄(アン・ホヨン)駐米大使を一時的に留任させ、約5ヶ月間職務を継続させた事例がある。当時は北朝鮮の核・ミサイル危機など、喫緊の懸案事項を引き継ぎ、その管理を継続する必要があったためである。米国の関税発動期限に迫られながら交渉に臨む現在の状況において、当時のように柔軟な対応が取られていたらどうなっていたであろうか、という後悔の声が聞かれるのも無理はない。

国際交渉の最前線では、一貫性のある人脈と専門知識を持つ「最前線のプレーヤー」の存在が不可欠である。日本と韓国の駐米大使を巡る今回の対照的な動きは、激動する国際情勢における外交戦略の継続性と柔軟性の重要性を浮き彫りにしていると言えるだろう。

参考文献

  • 朝鮮日報日本語版, 「関税戦争のど真ん中に…駐米大使を急きょ帰国させた韓国」, 2025年7月30日.
  • 日本外務省, 在外公館長人事関連資料.
  • 韓国外交部, 在外公館長人事関連資料.