映画「カツベン!」製作に貢献していた父のこと 作家・玉岡かおるさん寄稿

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作家の玉岡かおるさん(南雲都撮影)

作家の玉岡かおるさん(南雲都撮影)

 映画がモノクロでサイレントだった時代に、独自の“しゃべり”を加えて映画に彩りを添えた「活動弁士」(通称・活弁)を主人公にした周防正行監督の最新作「カツベン!」が13日に全国公開される。父親(故人)がサイレント映画のフィルムコレクターで本作の製作にも協力している作家、玉岡かおるさんが最新作への思いを寄せた。玉岡さんの寄稿文は、以下の通り。

 映画「カツベン!」に、父、玉岡忠大(たまおか・ちゅうだい)の“カツベン”が参考になっていたことは、あの出会いがあるまでは、まったく知らなかったです。

 父が平成28年に97歳で亡くなって2年後のことです。父が集めた膨大なサイレント映画のフィルムコレクションをどうしようということになり、私が教壇に立っている大阪芸術大学の映像学科に相談に行ったときのことです。

 その日、たまたま周防正行監督が大学で特別講義をされるということで、監督の後ろで控えていたところ、私のネームタグを見た監督の関係者の方が話しかけてこられました。

 「玉岡さん、というと、忠大さんのご関係者ですか?」

 そして、その関係者の方は、父が生前、ナメラ商店街(兵庫県三木市)で催したサイレント映画上映会に、わざわざ東京から訪ねてこられ、「父のカツベンを見た」とおっしゃったのです。

 きっと、「カツベン!」を製作するにあたり、活動弁士とはどんなものか、取材なさっていたのでしょう。この映画のパンフレットには、撮影前に約3年もかけてさまざまなサイレント映画を鑑賞し、現役活動弁士への取材などもみっちり行ったと書かれていました。

 上映会当時、父は96歳。サイレント映画は大正から昭和初期のわずか10年くらいに隆盛を極め、すぐにトーキーに取って代わられてしまいますから、父は本物のカツベンを見た最後の世代だったと思います。

 父がそのとき、どんなカツベンの“しゃべり”をしたのでしょうか。父はともかくサイレント映画に魅せられた化石のような人でしたから、「周防組」の取材班も圧倒されたのではないでしょうか。

 「『がんばって作りなはれ』と、やさしく言ってくださいました。映画の完成を見ていただきたかったです」と、監督の関係者の方におっしゃっていただき、胸が詰まりました。

 今回の映画に登場するサイレント映画のくだりに、父の口調に似たシーンがあり、なんだか父に会えたような気がしました。映画のエンドロールにも、父の名前がありました。

 映画の主人公、染谷俊太郎(成田凌)は映画が好きで好きで、弁士の説明を全部諳(そら)んじていますが、父も、そんな感じでした。一度見た映画が寝ても覚めても忘れられずにいたのでしょう。トーキーの時代がきても、ひたすらサイレント映画でした。

 父が遺(のこ)したおびただしいサイレント映画のフィルムコレクションは、ある美術館が寄贈してほしいということで、先日、美術館の方がコレクションの全貌を見に来られたのですが、驚いておられました。

 フィルムの缶を開けると、一つ一つに見納めたときの感想を書いたメモに「さよなら」と書いてあり、自分の死期を悟るにつれ、愛着のある“フィルムたち”を残していくことを惜しんで、ひとり、最期の時を過ごしたのでしょう。

(作家 玉岡かおる)

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