神奈川県横浜市に位置する神奈川県警察の直轄警察犬訓練所は、県警が直接犬の飼育管理から訓練までを一貫して行う重要な施設です。この春、新たに警察犬係員として配属されたばかりの職員が、犬舎でジャーマン・シェパードにリードをつけようとした際、その賢い犬はするりと身をかわし、なかなか応じようとしませんでした。まるで「この人にはリードをつけさせない」とでも言いたげに、リードをつけようとする係員と逃げる犬との間で追いかけっこが延々と続いたといいます。この光景は、警察犬と新任の担当者が信頼関係を築く上での、最初の大きな壁を示していました。
念願の「警察犬係」になりベテラン犬とペアを組む
この春、長年の目標であった鑑識課の「警察犬係」に着任したのは、関根真由子巡査長です。彼女のペアとなったのは、8歳のメスのジャーマン・シェパード、ニケ号。体重30kg、引き締まった体躯と美しいツヤのある毛並みを持つニケ号は、そのキャリアも長く、これまで数々の事件現場で活躍してきたベテラン警察犬です。例えば、横浜の神社で御神木が燃やされた放火事件では、ニケ号たちが遺留品から容疑者の居場所を特定し、逮捕に貢献しました。また、不同意わいせつ事件においては、犯人が座っていたベンチに残されたわずかな匂いから、容疑者の逮捕へと繋がる決定的な手がかりを見つけ出しました。そのような経験豊富なプロフェッショナルな警察犬ニケ号と、警察犬係としては“新米”である関根巡査長のコンビは、着任から約1カ月が経過した頃から、少しずつ現場に出動するようになりました。彼らがどのようにして強固な信頼関係を育んでいったのか、その軌跡を訓練所で伺いました。
「この人のために頑張りたい」と思われるように
関根巡査長は、警察官歴10年目を迎えるベテランですが、これまで一度も犬を飼った経験がありませんでした。「訓練所に来て初めて犬に触れたような気がします。シェパードは想像以上に大きくて、最初は本当に大変でした」と当時の戸惑いを語ります。直近までは警察署で鑑識の仕事に携わっており、「警察犬係」になることを目標に、休日には警察犬の訓練を見学するほど熱心でした。着任後すぐ、関根巡査長はニケ号との「親和(しんわ)訓練」を開始しました。この訓練は、警察犬が担当者や新たな環境に慣れることを目的としており、基本的な服従訓練に加え、足跡追及や遊びを通じて、犬との絆を深めていくものです。訓練開始当初は、リードすらつけられず、たとえつけられてもニケ号に引っ張られてしまい、まともに訓練ができなかったといいます。「それこそ本当に仲良くなって、『私が担当だよ』と覚えてもらうための訓練です。毎日地道に続けることで、少しずつニケ号との距離が縮まり、慣れてきました」と関根巡査長は語り、その言葉からは、ニケ号との信頼関係を築くための並々ならぬ努力と愛情がうかがえます。
神奈川県警察の警察犬訓練所で、訓練を終え褒美のボール遊びを楽しむベテラン警察犬ニケ号と新米係員の関根真由子巡査長
関根巡査長と警察犬ニケ号の間に育まれたこの「信頼の絆」は、単なる担当者と犬の関係を超え、互いに支え合う真のバディシップへと進化しています。困難なスタートを乗り越え、日々の地道な訓練と真摯な向き合いを通じて築かれた彼らの関係は、今後の神奈川県警察における捜査活動において、計り知れない貢献をもたらすことでしょう。新米係員とベテラン警察犬が織りなすこの物語は、警察の仕事における人間と動物の特別な連携と、その中に宿る深い信頼の重要性を私たちに教えてくれます。彼らの今後の活躍がますます期待されます。