外国人オーナーとの賃貸トラブル急増!賃借人が知らない間に「源泉徴収義務」を負うリスクとは

近年、日本の不動産市場、特に都心のタワーマンションは、外国人投資家の格好の投資対象となっています。その結果、高額な物件が次々と外国人の手に渡り、日本人が購入しにくい状況が生まれています。この外国人による不動産所有の増加は、新たな社会問題、特に「税務上のトラブル」を引き起こしており、賃貸物件を借りる日本人にとっても無視できないリスクとなっています。本稿では、外国人オーナーとの賃貸契約に潜む「源泉徴収義務」という落とし穴に焦点を当て、その法的側面、具体的なトラブル事例、そして予防策について詳しく解説します。

外国人オーナー増加と不動産市場の現状

日本の不動産市場における外国人オーナーの存在感は、近年ますます高まっています。2024年3月に三菱UFJ信託銀行が発表した『2024年度下期 デベロッパー調査』によると、千代田区、港区、渋谷区といった都心主要エリアの新築マンション購入者のうち、平均で2~4割が外国人であることが明らかになりました。さらに、調査対象のデベロッパーの7.7%は、「購入者の5割以上が外国人」と回答しており、特定の物件においては過半数が外国人投資家によって購入されている実態が浮き彫りになっています。

外国人オーナーとの賃貸トラブル急増!賃借人が知らない間に「源泉徴収義務」を負うリスクとは都心に建ち並ぶタワーマンション。外国人投資家による購入が増え、夜間も明かりの点かない部屋が目立つことから、所有者の居住状況に疑問符が投げかけられています。

このような外国人オーナーの増加は、単に物件の所有権が移転するだけでなく、思わぬ税務上の問題を引き起こすケースが相次いでいます。特に、賃貸契約においては、借り主が予期せぬ形で税務上の義務を負う可能性があり、これが新たなトラブルの温床となっているのです。

賃貸物件の「落とし穴」:非居住者オーナーからの源泉徴収義務

外国人オーナーとの賃貸契約で問題となっているのは、賃借人が負う可能性のある「源泉徴収義務」です。最近、X(旧Twitter)で拡散された動画では、ある男性が中国人オーナーから物件を賃貸した際に、退去時に税務署から約100万円の税金滞納を指摘されたと訴えるケースが紹介され、大きな話題となりました。

この問題について、『税理士法人 KAJIグループ』の加地宏行税理士は次のように解説しています。「外国人オーナーが日本に居住していない、いわゆる『非居住者』である場合、賃借人は家賃から所得税など20.42%を源泉徴収し、翌月10日までに税務署に納める義務があります。外国人オーナーも借り主もこの法律を知らずに、後になって税務署から指摘されトラブルになるケースが多発しています。」

例えば、家賃が月額10万円の場合、賃借人は20,420円を源泉徴収して税務署に納付し、残りの79,580円をオーナーに送金する必要があります。動画の男性のケースでは、延滞税なども含め、5年間で約100万円の請求があったと推測されます。

ただし、この源泉徴収義務は、すべての賃貸契約に適用されるわけではありません。加地税理士によると、「個人が居住用として借りている場合は源泉徴収は不要です。あくまで事業用物件(個人名義含む)や法人名義での賃貸の場合にのみ適用されます。」と明確にされています。つまり、住居として借りる場合は問題ありませんが、SOHO利用や店舗、事務所として借りる場合は注意が必要です。

「知らなかった」では済まされない:法的責任とトラブル回避策

前述の動画の男性は、「これは不当な法律だと思う。何も聞いていない。海外のオーナーも何も知らない。(不動産店には)告知義務がないらしい」と憤りを露わにしています。これに対し、コメント欄では「税務署許せん!」「この法律はおかしい」といった怒りの声がある一方で、「法律なので知らないでは済まされない」と冷静な意見も寄せられています。日本の法律においては、たとえ知らなかったとしても、その義務から免れることはできません。

では、このようなトラブルに巻き込まれないためには、どのような対策を講じるべきでしょうか。加地税理士は以下の予防策を提案しています。

  1. 契約段階での貸し主確認: 賃貸契約を結ぶ前に、貸し主が日本の非居住者である外国人かどうかを徹底的に確認することが最も重要です。もし非居住者であると判明した場合、源泉徴収義務が発生する可能性があるため、契約内容を慎重に検討するか、契約を見送ることも選択肢に入れるべきです。
  2. 国内不動産業者の介在: 国内の信頼できる不動産業者に間に入ってもらい、賃借料の支払いをその不動産業者へ行う方法も有効です。この場合、不動産業者が税務処理を代行してくれるため、賃借人が直接源泉徴収の手続きを行う手間とリスクを回避できます。

中国人が購入した物件は、多くの場合、中国人不動産業者を通じて別の中国人へ転売される傾向にあり、一度外国人の手に渡ると日本人の手にはなかなか戻ってこないと言われています。そのため、現在賃貸している物件が、知らぬ間に海外在住の外国人オーナーの手に渡ってしまい、毎月源泉徴収して税金を納めなければならない状況に陥る可能性もゼロではありません。もし、このような告知が事前にあればまだ対策を講じられますが、動画のケースのように、知らない間に申告漏れとなり、ある日突然税務署がやってくるという事態は、まさに「知らないでは済まされない」という恐ろしい現実を突きつけるものです。

結論と今後の展望

外国人オーナーによる不動産所有の増加は、日本の不動産市場に新たな局面をもたらしています。その一方で、非居住者オーナーからの賃貸契約における源泉徴収義務は、多くの賃借人にとって予期せぬ法的・経済的負担となる可能性があります。この問題は、「知らなかった」では済まされない厳然たる法律の壁として存在します。

個人として居住目的で物件を借りる場合には基本的に源泉徴収の義務は発生しませんが、事業目的や法人名義で賃貸契約を結ぶ際には、契約相手が日本の非居住者である外国人ではないかを必ず確認し、必要に応じて専門家や国内の不動産業者を介在させるなど、慎重な対応が求められます。

今後、日本の不動産市場における外国人投資の動向はさらに複雑化する可能性があり、それに伴い、こうした税務上の問題も多様化するかもしれません。賃借人として、自身の権利と義務を正確に理解し、予期せぬトラブルを未然に防ぐための情報収集と対策が、これまで以上に重要となるでしょう。


参考文献

  • 三菱UFJ信託銀行, 『2024年度下期 デベロッパー調査』, 2024年3月.
  • FRIDAYデジタル.「税務署に指摘されトラブルになるケースが続出」, Yahoo!ニュース, 2024年8月6日.