インドネシアでは、8月17日の独立80周年記念日が迫る中、日本の人気漫画『ワンピース』に登場する海賊旗が国内各地で掲げられ、インターネット上で大きな話題を呼んでいます。住宅の屋根やトラック、さらには公共の場など、様々な場所で見られるのは、『ワンピース』の主人公モンキー・D・ルフィ率いる「麦わらの一味」のシンボルである、麦わら帽子をかぶったドクロの海賊旗です。長年にわたりインドネシアでも絶大な人気を誇る『ワンピース』ですが、なぜ今、この海賊旗が国の独立を祝う時期にこれほどまでに出現しているのでしょうか。
なぜ「ワンピース」の海賊旗なのか?
インドネシアでは、独立記念日には伝統的に赤と白の自国旗を掲げることが慣習となっています。しかし、独立80周年という節目の年である2025年に際し、『ワンピース』の海賊旗が国旗の代わり、あるいは国旗とともに掲揚されている現象は、政府に対する抗議、批判、あるいは不満の表明として解釈されています。
例えば、あるトラック運転手のラフマットさんは、生活必需品の高騰など、日増しに厳しくなる経済状況に対する平和的な抗議の意思を示すため、自身の車両の荷台に国旗と共に『ワンピース』の海賊旗を掲げたと、地元メディアのテンポ誌に語っています。ラフマットさんの職場にあるトラック6台のうち5台に海賊旗が掲げられており、彼は「この旗をきっかけに、政府には低所得層の声に耳を傾け、これ以上生活が苦しくならないよう、特に雇用の創出に真剣に取り組んでほしい」との切実な願いを表明しています。
インドネシアで独立記念日前に広がる『ワンピース』海賊旗の波紋。国民の不満と政府への象徴的抗議の現れ。
経済苦境と「パフォーマンス的愛国主義」への反発
この動きが広まった背景には、インドネシア・ムラワルマン大学出身のファルハン・リズクッラーさんが投稿プラットフォーム「Medium」に記した分析があります。プラボウォ大統領が8月に国民に対し1カ月間国旗を掲げるよう呼びかけた後に、この海賊旗の掲揚が顕著になったと指摘されています。
プラボウォ大統領は、国の英雄たちへの敬意と国民の愛国心を示す手段として国旗掲揚を求めたものの、特に低所得層に対して具体的な効果のある政策を打ち出せていない政府からのこの呼びかけは、多くの国民にとって「パフォーマンス的な愛国主義」の押し付けと感じられた、とリズクッラー氏は分析しています。「そこで彼らは、自分たち自身の象徴で応えました。麦わらの一味の旗を掲げることは、不正義と考えられる現状や、国民の福祉よりも権力維持を優先していると見られる政府に対する、風刺的かつ象徴的な抗議の形なのです。」この現象は、政府の政策に対する国民の不満と、既存の権威への挑戦を同時に表現しています。
抵抗の象徴としての海賊旗
インドネシアの国旗は、赤が「勇敢さ」を、白が「純潔」や「誠実さ」を象徴しています。しかし、サウスチャイナ・モーニング・ポストが報じたSNS上のコメントからは、異なる感情が読み取れます。「権力者にいまだに支配されているこの時代に、赤と白の国旗はあまりにも神聖すぎて掲げられない」「(海賊旗は)この国に蔓延する不正義への抵抗の象徴だ」といった声が書き込まれており、政府への不満が深まっている現状を浮き彫りにしています。
この『ワンピース』の海賊旗がインドネシアの独立記念日前に広がる現象は、単なる漫画の人気に留まらず、国民が直面する経済的困難や政治への不満を、世界的に知られる日本のポップカルチャーのシンボルを通じて表現する、現代的な形での抵抗運動として注目されています。これは、文化が社会的なメッセージを伝える強力な手段となり得ることを示しています。
参考資料
- Huffington Post JP: インドネシアでワンピース海賊旗が独立記念日前に広がる理由は?「象徴的な抗議」
- Tempo.co (インドネシアのニュースサイト)
- Medium: Farhan Rizkullahの投稿
- South China Morning Post