日米間で、新たな関税を巡る「認識のズレ」が顕在化しています。この問題の解消に向け、赤沢経済再生担当大臣は7日、アメリカ財務省を訪問し、すでに合意したはずの関税について協議を行いました。しかし、日本政府の当初の説明とトランプ政権が発動した措置の間には大きな食い違いがあり、専門家はアメリカ側からさらなる要求が出てくる可能性を指摘しています。
「新たなトランプ関税」発動:日本政府の認識との隔たり
“新たなトランプ関税”はすでに7日から発動されましたが、この措置の内容について日本政府とアメリカ側の間で齟齬が生じています。石破総理大臣は「すでに適用が開始された大統領令を修正する措置を直ちに取るように米側に強く求めている」と述べ、早期の是正を訴えました。
日本政府、特に赤沢経済再生担当大臣は、この新関税について次のように説明していました。「既存の関税率が15%以上の品目には課されず、15%未満の品目についても15%が上限となる」。つまり、アメリカに輸出される光ファイバーや綿製品など、元々関税率が15%未満の品目については関税が15%に引き上げられるものの、牛肉のように元々15%を超えている品目には影響がないはずでした。
ところが、トランプ政権が実際に課したのは「一律15%の上乗せ」という措置でした。これにより、牛肉の関税は元の税率に15%が上乗せされ、実に41%を超える高関税が適用される事態となっています。この予期せぬ展開が、日米間の「認識のズレ」の核心です。
日本政府の対応:「米側の手続きは遺憾」
日本政府は、このような事態は“アメリカ側のミス”であるとの見解を示しています。赤沢大臣はアメリカ側との協議後、「米側閣僚から『米側の手続きは遺憾』との認識の表明があった」と説明しました。これを受け、大臣は今後、大統領令が修正され、すでに業者が払い過ぎた関税についても速やかに払い戻しが行われるとの見通しを語っています。
修正の時期について問われた赤沢大臣は、「適時にということ。半年、1年ということは当然あり得ません。常識的な範囲で米側が対応すると理解している」と述べ、早期の対応への期待を表明しました。
専門家が指摘する「合意文書不在」の弊害
しかし、今回の問題の根本には、日米間で合意文書が作成されなかったことにあるという指摘も出ています。立憲民主党の野田佳彦代表は「こんなことで毎回、大臣が訪米しなきゃいけないこと自体、極めて憂慮すべきことだと私は思います。改めてしっかりと正しい文書を作ることの方が正しいのではないかと」と述べ、書面での合意の重要性を強調しました。
明海大学の小谷哲男教授もこの見解を支持し、「何人かトランプ政権の関係者にこの件の話を聞いてみたが、閣僚級で話したことがすべて事務方に伝わるわけではない。やはり合意文書を作らなかったことの弊害だと、アメリカ側の担当者の1人は言っていた」と、情報の伝達不足と合意文書の不在が問題を引き起こしたと分析します。
さらに、小谷教授は合意文書の作成に日本側が後ろ向きだった可能性を指摘しています。「トランプ政権としては合意文書を作ることに決して後ろ向きではない。他の国は作っているわけですから、どちらかというと日本側が作るのを好まなかった」と述べ、その理由として「2019年に結んだ日米の貿易協定に基づけば自動車関税は2.5%であるべき。これを上書きしたくないという思いがあるのでは」との見方を示しました。これは、将来的な自動車関税交渉への影響を懸念した日本側の戦略的な判断があった可能性を示唆しています。
今後の行方:大統領署名と追加要求の可能性
では、今後大統領令の修正は円滑に行われるのでしょうか。小谷哲男教授は、そのプロセスには不確実性が伴うと警告します。「大統領令なので、トランプ大統領の署名が必要になる。その時に日本に特例措置を与えるためのものですと言って『分かった』とすぐにサインをしてくれるかは分からない」と述べ、トランプ大統領の気まぐれな判断が影響する可能性を示唆しました。
さらに、小谷教授は「これを機に追加で要求をするということもあり得る」と述べ、今回の関税問題をテコに、アメリカ側が日本に対してさらなる譲歩を求める可能性があることにも警鐘を鳴らしています。日米間の「認識のズレ」は、単なる事務手続き上のミスに留まらず、今後の貿易関係に大きな影響を及ぼす可能性を秘めていると言えるでしょう。
参考文献
- All Nippon NewsNetwork(ANN). (日付不明). 15%の関税を巡り、日米の間で生じている「認識の違い」。専門家はアメリカ側からさらなる要求が出てくる可能性を指摘しています。. Yahoo!ニュース. Source link