「木の上の軍隊」映画化:35年越しの歳月を経て辿り着いた、終戦80年へのメッセージ

本年は終戦80年の節目の年であり、例年以上に戦争を題材にした映画が多数公開され、注目を集めています。その中でも、すでに公開が始まった平一紘監督の映画「木の上の軍隊」は、太平洋戦争の激戦地である沖縄・伊江島を舞台に、終戦を知らずにガジュマルの木の上で2年間を隠れて生き通した2人の日本兵を描く異色作として話題を呼んでいます。この作品は、そのユニークな実話性だけでなく、企画から映画化に至るまで35年という歳月を要した「執念の物語」としても特筆すべきものです。

沖縄・伊江島のガジュマルの木の上で生き延びた日本兵を描く映画「木の上の軍隊」のビジュアルイメージ沖縄・伊江島のガジュマルの木の上で生き延びた日本兵を描く映画「木の上の軍隊」のビジュアルイメージ

井上ひさしが構想した、〈オキナワ〉を巡る壮大な戯曲

「木の上の軍隊」の起源は、故・井上ひさし氏が約40年前から温めていた壮大な企画に遡ります。井上氏は、日本の近現代史における重要な節目である〈ヒロシマ〉〈ナガサキ〉〈オキナワ〉の3つの土地を舞台にした戯曲を三部作として構想していました。このうち〈ヒロシマ〉を題材とした『父と暮せば』は、原爆で生き残った娘を幽霊となった父が励ます二人芝居として1994年に初演され、現在でも毎年のように上演される名作舞台となっています。そして、今回映画化された「木の上の軍隊」こそが、〈オキナワ〉を舞台に伊江島の実話をもとに井上氏が執筆準備を進めていた戯曲だったのです。

二度の中止、そして巡り合った奇跡の映画化

この「木の上の軍隊」の舞台化は、これまでに二度も中止の憂き目を見てきました。一度目は1990年4月、井上氏が主宰する劇団こまつ座の第20回公演として、演出・千田是也、出演・すまけい、市川勇という布陣で紀伊國屋ホールでの初演が発表されました。しかし、“遅筆堂”の異名を持つ井上氏ゆえに台本が完成せず、公演は中止となります。二度目は2010年7月、こまつ座とホリプロの提携公演として、演出・栗山民也、主演・藤原竜也で紀伊國屋サザンシアターでの初演が決定し、準備が進められました。しかし、井上氏が肺がんにより同年4月に逝去。またも公演中止となってしまい、関係者の間では、もう日の目を見ることはないだろうと誰もが諦めかけていました。

それでも、井上氏の三女であり、こまつ座社長を務める井上麻矢氏は、父の企画をなんとか形にしたいと奔走します。劇団モダンスイマーズの蓬莱竜太氏に新たに台本を依頼し、蓬莱氏は井上氏が残したわずか2行のメモ「沖縄戦、伊江島、ガジュマルの木の上で終戦を知らずに2年間を過ごした日本兵二人の話」と、大量の資料をもとに見事に新しい戯曲を書き上げました。そして2013年4月、藤原竜也氏、山西惇氏、片平なぎさ氏の出演により、ついに舞台初演にこぎつけることができたのです。これは、当初の初演予定から実に23年もの歳月が経過していました。そして、終戦80年となるこの2025年夏、ついに平一紘監督によって映画化され、観客の前にその姿を現したのです。まさに35年越しの「執念の企画」が結実した瞬間と言えるでしょう。

終戦80年に届けられる、歴史の重みとメッセージ

映画「木の上の軍隊」は、井上ひさし氏の構想から数え、二度の公演中止という困難を乗り越え、35年という長い歳月を経てついに映画という形で私たちのもとに届けられました。この作品は、戦後を生き抜いた人々の「執念」と、歴史の重みが詰まった力作です。終戦80年という節目に、沖縄・伊江島での知られざる「実話」が映画として再び問いかける平和へのメッセージは、現代社会においても深く響くことでしょう。

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