静かな退職と職場の新常識:心理的安全性で変わる組織の未来

近年、世界中で「静かな退職(Quiet Quitting)」という現象が注目を集めています。これは、従業員が与えられた最低限の業務はこなすものの、それ以上の貢献はせず、チームへの協力や議論への参加にも消極的である状態を指します。指示されたことだけをこなし、積極的な関与を避けるこの行動は、組織にどのような影響をもたらし、また当の個人にはデメリットがないのでしょうか。人材・採用分野の専門家は、このような行動の背景には、職場の環境が大きく関係していると指摘します。

「静かな退職」とは何か?その特徴と背景

「静かな退職」とは、文字通り会社を辞めるわけではないものの、仕事に対する熱意や関与度を最小限に抑える働き方を意味します。具体的には、会議での発言を控える、新しいプロジェクトに立候補しない、与えられた業務時間外の作業を拒否するといった行動が挙げられます。この現象の背景には、過剰な労働時間への反発、評価への不満、仕事への意義を見出せないこと、あるいはバーンアウト(燃え尽き症候群)といった複合的な要因があると考えられています。このような姿勢は、個人のキャリア成長の機会を奪うだけでなく、組織全体の生産性やチームの士気にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。

静かな退職のイメージ。デスクで考え込む従業員の姿静かな退職のイメージ。デスクで考え込む従業員の姿

職場は4つのタイプに分類できる:あなたの組織はどれに当てはまる?

職場の環境は、その心理的安全性と仕事のレベル(目標設定やパフォーマンスの高さ)によって、大きく4つのタイプに分類できます。あなたの職場は、以下のどれに当てはまるでしょうか。

心理的安全性と仕事のレベルで分類された職場の4つのタイプを示す図心理的安全性と仕事のレベルで分類された職場の4つのタイプを示す図

理想の職場:「学習する職場」

このタイプは、心理的安全性も仕事のレベルも共に高い理想的な環境です。ここでは、従業員は安心して意見を述べることができ、建設的な反対意見も歓迎されます。活発な議論が交わされ、互いに切磋琢磨することで、個人のパフォーマンスが向上し、組織全体として継続的な成長と進化を遂げます。従業員のエンゲージメントが高く、人材育成が自然と促進されるのが特徴です。

居心地は良いが成長がない:「ぬるい職場」

心理的安全性は高いものの、仕事のレベルが低い職場です。メンバー間の関係は良好で、ある種の馴れ合いが存在し、居心地の良さを感じるかもしれません。しかし、「このくらいで十分」という現状維持の意識が蔓延し、高い成果を求められることもなく、結果として個人の成長機会や組織としての生産性向上の機会が失われがちです。働きがいを感じにくい環境になる可能性があります。

成果は出すが精神的負担が大きい:「きつい職場」

目標設定が高くノルマも厳しい一方、心理的安全性は低い職場です。リーダーや権力者の意見には反論が許されず、不安や緊張が常に蔓延しています。恐怖政治で人をコントロールしようとする傾向があり、従業員は成果を出すために高いストレスに晒され、ハラスメントや離職率の増加につながるリスクもはらんでいます。

最も危険な職場:「サムい職場」

仕事のレベルも心理的安全性も共に低い、最も問題の多い職場です。この環境では、職場のメンバー全員が最低限の仕事しかしようとせず、自身の保身を最優先します。協力体制は薄く、互いに無関心であるため、組織としての機能不全に陥りやすい状態です。「静かな退職」という現象が蔓延する大きな要因の一つが、まさにこの「サムい職場」であると指摘されています。

まとめ

「静かな退職」は、単なる個人の怠慢ではなく、組織が抱える課題、特に心理的安全性の欠如と仕事の意義喪失の表れであると理解すべきです。従業員が貢献意欲を失い、最小限の業務しか行わない状態は、長期的に見て組織の競争力と持続可能性を損ないます。理想的な「学習する職場」を築くためには、リーダーシップが心理的安全性を確保し、明確な目標設定を通じて従業員の成長を支援することが不可欠です。各組織は、自社の職場環境がどのタイプに該当するかを客観的に評価し、従業員が働きがいを感じ、最大限のパフォーマンスを発揮できるような組織文化の構築に努めるべきでしょう。


参考文献: