千葉工業大学が志願者数で早稲田大を抜き史上最多を記録した背景と今後の挑戦

これまで大学一般入試の志願者数最多記録は、バブル期の1989年に早稲田大学が打ち立てた16万150人でした。しかし、この春、その記録が36年ぶりに更新され、千葉県習志野市に本部を置く千葉工業大学が16万2005人という史上最多の志願者数を記録しました。1942年創立で、現存する私立の理工系大学としては最も長い歴史を持つ同大学ですが、全国的な知名度は早稲田大学や明治大学に比べると決して高いとは言えません。なぜ、千葉工業大学がこのような快挙を成し遂げることができたのでしょうか。

長年の歴史を持つ千葉工業大学の躍進

千葉工業大学は、毎年のように志願者数ランキング上位に名を連ねる有力大学を抑え、前年度比1万9360人増という大幅な伸びを見せ、初めて全国1位の座を獲得しました。これまで11年連続トップだった近畿大学をも凌ぐ結果です。教育ジャーナリストの石渡嶺司氏は、この成功の背景には、同大学が2010年代に入ってから積極的に推進してきた改革が大きく評価されたことがあると解説します。

JR津田沼駅から徒歩数分の好立地に位置する千葉工業大学津田沼キャンパスの外観JR津田沼駅から徒歩数分の好立地に位置する千葉工業大学津田沼キャンパスの外観

「受験生ファースト」の改革が成功の鍵

千葉工業大学の躍進は、多岐にわたる改革と戦略的なアプローチによって支えられています。特に、受験生にとってのメリットを追求した施策が、圧倒的な人気を集める最大の要因となりました。

積極的な学部・学科の新設と立地の優位性

同大学は、もともと工学部が中心でしたが、教育改革の一環として「情報変革科学部」や「創造工学部」といった新たな学部を次々と開設してきました。さらに、今年4月には工学部に全国初となる「宇宙・半導体工学科」を創設するなど、時代のニーズに応じた専門分野を拡充。現在では5学部17学科を擁するまでに発展しています。これに加え、本部キャンパスがJR津田沼駅から徒歩数分というアクセス抜群の好立地にあることも、多くの受験生に受け入れられる大きな要因となっています。

経済的負担軽減と柔軟な出願システム

石渡氏は、千葉工業大学が「受験生ファースト」の取り組みを徹底している点を指摘します。最も画期的な施策の一つは、大学入学共通テストを利用する場合の検定料を無料にしたことです。通常、1万5000円ほどの費用がかかるこの検定料を無料にすることで、受験生の経済的負担を大幅に軽減しました。さらに、1学科分の検定料を支払えば、他の学科をいくつでも受験できる「学内併願」を可能にし、学内での併願者数が増加しました。

また、インターネット対応による出願システムを導入し、試験日の前日まで出願を受け付けたことも、受験生にとって大きなメリットとなりました。多くの大学が試験日の約1ヵ月前に出願を締め切る中で、他校の合否状況を見ながらギリギリまで受験校を決定できる柔軟性は、受験生から高く評価されました。これらの取り組みにより、2016年には志願者数ランキングでトップ10入りを果たし、2021年からは4年連続で2位を維持するなど、着実に人気を高めてきました。

難易度上昇と今後の課題

志願者の増加は、自然と大学の難易度も引き上げています。石渡氏によると、2010年代までは「私立4工大(芝浦工大、東京都市大、東京電機大、工学院大)や総合大学の日東駒専(日本大、東洋大、駒沢大、専修大)よりも1ランク下の位置づけ」でした。しかし、志願者の急増に伴い偏差値も急上昇し、現在では学科によっては日東駒専と肩を並べるまでに評価が向上しています。

一方で、石渡氏は今後の課題も指摘しています。それは、改革の歩みを止めれば受験生の目は他の大学へ移ってしまうという点です。志願者数は増えたものの、まだ全国的な知名度は十分とは言えません。特に、関西地方の受験生や文系の受験生を取り込むための新たな施策を打ち出し、大学としての魅力をさらに発信できるかどうかが、今後の成長を左右する鍵となるでしょう。

挑戦し続ける千葉工業大学の未来

史上最多の志願者数を記録し、日本の大学入試の歴史に新たな一ページを刻んだ千葉工業大学。これまでの改革と「受験生ファースト」の精神は、確実に実を結びました。しかし、その挑戦はまだ続いています。今後10年で、誰もが知る名門大学へと発展できるか、千葉工業大学の取り組みは引き続き注目されます。


参考文献