ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、東部・南部での激しい戦闘に加え、全土を標的とするミサイルや無人機攻撃が民間人の犠牲を増やし続けています。突如として大切な家族を奪われた人々は、戦禍の中で生きる意味を懸命に探し求めています。この悲劇の中、ウクライナ西部リビウで家族の全てを失った男性の深い悲しみに焦点を当てます。
ヤロスラフ・バジレビチさん(49歳)は、ウクライナ西部リビウの墓地で、四つ並んだ十字架の墓標を呆然と見つめていました。彼にとっての人生の全てであった妻と三人の娘たち。彼らの墓前で、ヤロスラフさんは「私だけが生き残り、もう人生に意味はない」と深い喪失感を語ります。墓標に掲げられているのは、ロシア軍の攻撃によって約1年前に命を落とした妻イブヘニアさん(当時43歳)と、娘のヤリナさん(同21歳)、ダリアさん(同18歳)、エミリアちゃん(同6歳)の笑顔が収められた遺影です。ヤロスラフさんは週に何度も墓地を訪れ、スマートフォンから夫婦のお気に入りだったフランス音楽を流し、愛する家族との時間を過ごしています。この個人的な悲劇は、ウクライナにおける戦争の非人道的な側面を浮き彫りにしています。
リビウを襲った「キンジャル」ミサイルの夜
ウクライナ・リビウの墓地で、ロシア軍の攻撃により失われた妻と3人の娘の墓標を訪れるヤロスラフ・バジレビチさん
昨年9月4日未明、リビウの閑静な住宅地は、ロシア軍の極超音速ミサイル「キンジャル」による二度の攻撃に晒されました。空襲警報が鳴り響く中、アパート4階の自宅廊下に身を寄せていたヤロスラフさん一家。1発目のミサイルが近隣に着弾し、爆発音が轟いた直後、妻と娘たちは「より安全な場所」として事前に決めていた1階へ移動するため、階段を下りていきました。その数分後、イブヘニアさんからヤロスラフさんの携帯電話に連絡が入りました。「あなたも早く――」しかし、階段を2発目のミサイルが直撃し、電話は途切れました。まだ居室にいたヤロスラフさんだけが、この凄惨な攻撃から奇跡的に生き残ってしまったのです。
「軍事施設を狙った」との主張の虚構
ロシア側は度々「軍事施設を狙った」と主張していますが、昨年9月に弾道ミサイルが直撃したウクライナ西部リビウのアパート周辺は、他ならぬ住宅地でした。救出されたヤロスラフさんが目にしたのは、妻と娘たちがいたはずのアパートの階段や1階が、見る影もなく崩落した無残な光景でした。救助隊の腕の隙間から娘の垂れ下がった脚を見た時、彼は「きっと命に別条はない。他の三人も、がれきの隙間にいてくれるはずだ」と必死に祈ったといいます。しかし、その願いは届くことはありませんでした。ヤロスラフさんは、「人生の宝物を奪われた」と、その時の絶望的な心境を語ります。
彼の妻イブヘニアさんは、子育ての傍ら三つの仕事を掛け持ちし、余暇にはヨガや香水調合といった趣味に情熱を注ぐ、まさに超人的な女性でした。一人で何でもこなすその姿から、娘たちは愛情を込めて母を「超能力者」と呼んでいたそうです。そんな温かい家庭が、一瞬にして奪われてしまったのです。この家族の悲劇は、戦争がどれほど無辜の市民からかけがえのないものを奪い去るのかを、改めて私たちに突きつけます。
この痛ましい出来事は、ウクライナでの戦争が単なる地政学的な対立に留まらず、多くの人々の日常生活と未来を破壊し続けている現実を示しています。ヤロスラフさんのように、愛する家族を失い、深い悲しみと喪失感の中で生きる人々が、ウクライナ全土で数えきれないほど存在します。国際社会は、こうした人道的な危機に目を向け、平和への具体的な道を模索し続ける必要があります。
参考文献:
- Yahoo!ニュース: 「一人だけ生き残り、私の人生はもう意味がなくなってしまった」ウクライナ西部リビウで妻と娘3人を奪われた男性の慟哭 (読売新聞オンライン), 2025年8月27日.
https://news.yahoo.co.jp/articles/e6e38769c023827b5a0316a0dce965da3224381b