ベネッセ「希望退職」450人募集の裏側:進研ゼミ不振と“強硬リストラ”の実態

教育・介護事業を展開する大手企業ベネッセホールディングスが、35歳以上の一般社員を対象に450人の希望退職者を募集した件について、社内からは「強硬なリストラに他ならない」との指摘が上がっています。この大規模な人員削減の背景には、同社の看板事業である通信教育講座「進研ゼミ」の深刻な不振があるとされており、会員数の減少は少子化や競合の台頭といった外的要因だけではないとの驚くべき実態が関係者によって明かされました。

希望退職者募集を発表したベネッセホールディングスの企業ロゴ。進研ゼミ事業の再編が背景にあることを示唆。希望退職者募集を発表したベネッセホールディングスの企業ロゴ。進研ゼミ事業の再編が背景にあることを示唆。

ベネッセ大規模「希望退職」の背景と内部告発

ベネッセにおける今回の希望退職者募集は、2014年の4000万人規模の個人情報流出事件による赤字と、それに伴う300人の希望退職者募集以来、最大規模の人員削減となります。今回は450人を目標とし、8月8日の締め切りまでに約600人の応募があったとされています。

複数の面談に呼ばれたというベテラン社員は、その実態について「希望退職という名目だが、実際は強硬なリストラと感じざるを得なかった」と証言しています。直接的な退職勧告ではないものの、「給料が減る可能性」や「介護事業への異動の可能性」といった、退職を促すような圧力を感じたといいます。

ベネッセグループは教育と介護の二本柱で事業を展開していますが、社員の多くは「教育に携わりたい」という思いで入社しており、介護事業への転籍には強い抵抗感があるのが現状です。また、進行中のプロジェクトからベテラン社員が露骨に外されるといった事例も発生しており、こうした会社の姿勢に嫌気がさして退職を決意した社員も少なくありません。このような状況は、組織内の士気にも大きな影響を与えていると考えられます。

主要事業「進研ゼミ」の深刻な苦境

今回のベネッセの人員削減の最大の要因として指摘されているのが、同社の基幹事業である通信教育講座「進研ゼミ」の業績不振です。過去10年間で会員数は100万人以上減少し、現在の会員数は約150万人にとどまっています。かつて多くの子供たちが親しんだ「これ進研ゼミでやったところだ!」というフレーズは、今や過去の栄光となりつつあります。

学校関係者によると、「進研ゼミ」の会員数減少は、少子化の進行や2014年の個人情報流出事件の影響が大きいとされています。長年にわたり会員数が減少し続ける一方で、社員数はほとんど変わっていなかったため、今回の人員整理は避けられないものだったという見方もあります。昨年には創業家が外資ファンドと組んでMBO(経営陣による自社買収)を実施しており、この「衰退事業の人員整理」にはファンドの意向も強く反映されていると分析されています。

オンライン化による競合の台頭

会員数減少の理由は、少子化や事件だけにとどまりません。教育分野における「オンライン化」の急速な浸透が、新たな競合の台頭を招き、「進研ゼミ」に逆風となっています。

従来、印刷物を中心とした通信教育は、物流コストがかかるため参入障壁が高いビジネスでした。しかし、デジタルコンテンツ配信が主流となることで、この障壁は大きく低下しました。その結果、タブレット端末を用いた教育コンテンツを提供するジャストシステム社の「スマイルゼミ」など、進研ゼミと内容も形式も類似したサービスが急増し、じわじわと会員が進研ゼミから流出している状況です。

さらに、全国の小中学生にタブレット端末が配布されたことも、「進研ゼミ」にとっては大きな影響を与えました。この新たな学習環境に商機を見出したのが、リクルート系の「スタディサプリ(スタサプ)」です。スタサプは主にB to B(企業向け)を事業の中心としていますが、学校教育の補助教材として自治体単位で導入が進んでいます。学校から配布された端末で補助的な映像授業をスタサプで利用できる場合、追加で有料の通信教育サービスを利用しようとする生徒や保護者は減少せざるを得ません。

「進研ゼミ」の未来と業界の課題

「進研ゼミ」を取り巻く状況は、少子化、個人情報流出、オンライン化による競合激化といった多くの外的要因によって厳しさを増しています。しかし、別の関係者は、これらの外的要因だけでなく、「進研ゼミの在り方そのものにも問題がある」と指摘しています。これは、事業の方針転換や、社内の意思決定プロセス、または顧客ニーズへの対応不足など、内部に起因する課題が根深く存在している可能性を示唆しています。

長年にわたり日本の教育を支えてきた「進研ゼミ」が、デジタル時代と少子高齢化という大きな波の中で、どのように変革し、その存在意義を再構築していくのかが問われています。今回の希望退職者募集は、ベネッセが新たな事業構造への転換を図る上での、大きな一歩であり、日本の教育産業全体の課題を浮き彫りにする出来事とも言えるでしょう。


参考文献