スタジオジブリが誇る不朽の名作『もののけ姫』が、1997年の劇場公開から時を経て、8月29日午後9時より日本テレビ系の金曜ロードショーで放送されます。この作品に登場する数々のキャラクターの中でも、森の神秘を象徴するコダマは多くの人々に愛されています。しかし、実はこの『もののけ姫』には、スタジオジブリを代表するもう一つの人気キャラクター、トトロとの意外な繋がりが隠されていることをご存じでしょうか?今回は、宮崎駿監督自身が語った、知られざるトリビアをご紹介します。
宮崎駿監督の「気に病んでること」:森にトトロがいない謎
『もののけ姫』の制作過程に密着したTVドキュメンタリーを基にした浦谷年良さんの著書『「もののけ姫」はこうして生まれた。』(徳間書店)には、宮崎駿監督が抱えていたある悩みが記されています。1996年7月2日、色彩設計を担当する保田道世さんが、森の木々に描かれたコダマの大群のカットについて宮崎監督に相談した際、監督は次のような本音を漏らしました。
「俺、気に病んでることが一つあるんですよ。トトロは何千年も生きているというのに、トトロが出てないじゃない、この森に。本当はトトロが一杯(原文ママ)いるんじゃないかって(笑)。気に病んでるんです、実は」
もののけ姫の主人公サンが森の中で思案する姿。自然と共生する物語の象徴。
1988年公開の『となりのトトロ』のパンフレットには、トトロが「人間よりも古くから日本に住んでいるオバケ」と明記されています。その設定からすれば、古来より日本の深い森に住むトトロが『もののけ姫』の世界に存在しないことに、宮崎監督は一種の違和感を覚えていたのです。自然と精霊の共存を描く『もののけ姫』において、森の主であるトトロの不在は、監督のクリエイティブな心のどこかで引っかかっていたのかもしれません。
ラストシーンのコダマが「トトロに変化した」という裏設定
しかし、もし実際にトトロが『もののけ姫』に登場したら、作品全体の雰囲気が大きく変わってしまい、ストーリー展開に不自然さが生じることもまた事実です。そこで宮崎監督は、この矛盾を解消するための一計を案じました。それが、作品のラストシーンに隠された“裏設定”です。
荒廃した森が再生の兆しを見せる『もののけ姫』のエンディングで、たった一匹のコダマが歩く姿が描かれます。このコダマこそが、後に「トトロになる存在」という設定が加えられたのです。前述の著書では、同年12月19日の宮崎監督の言葉として、以下のように記されています。
「これはもう、二木さんのたっての希望で、チビで一匹でいいから、コダマがノコノコ歩いてるやつ、最後にいれてくれって。それがトトロに変化したって(笑)。耳が生えてたっていうの、どうですかね。そうすると首尾一貫するんだけど」
この発言から、原画を担当した二木真希子さんの希望もあって、ラストシーンにあのコダマが加えられたことがわかります。そして、そのコダマが「後々トトロに進化した」という裏設定とすることで、宮崎監督は自身の抱えていた疑問を解消し、二つの作品世界を繋げる、ささやかながらも奥深い意味合いを持たせたのです。
このトリビアを知った上で『もののけ姫』のラストシーンを改めてご覧いただくと、作品に込められた宮崎駿監督の細やかな想いや、ジブリ作品の世界観がさらに深く感じられることでしょう。金曜ロードショーでの放送を機に、ぜひ新たな視点で『もののけ姫』をお楽しみください。
参考文献
- 浦谷年良 著, 『「もののけ姫」はこうして生まれた。』, 徳間書店, 1998年.