千葉で行列!脱北者の北朝鮮料理店「ソルヌン」が日本で夢を叶えた成功秘話

千葉市稲毛区に、連日行列が絶えない北朝鮮料理店「ソルヌン」があります。この店を切り盛りするのは、2015年に命がけで北朝鮮を脱出した文蓮姫(ムン・ヨンヒ)さん(34)。北朝鮮で「高麗ホテル」の料理人だった母から受け継いだ本場の味を携え、ソウルで出会った日本人の夫・勝又成(かつまた・しげる)さん(35)と共に日本で開業しました。言葉や文化の異なる異国で、なぜ彼女の北朝鮮料理店はこれほどまでに多くの日本人客に支持されるのか。料理への深い情熱と、驚くべき速さで夢を実現させたその感動的な物語に迫ります。

NHK取材が火付け役、ソウルでの成功から日本へ

文蓮姫さんは、2015年に自身が、そして翌2016年には母と弟がそれぞれ北朝鮮を脱北しました。平壌の最高級ホテル「高麗ホテル」の一角で店を構えるほどの腕前を持つ料理人だった母は、脱北後、韓国の食事情を徹底的に研究し、ソウルの中心部に北朝鮮料理店を開業。文さん自身も弟と共に厨房で母を支えました。

そんな折、ソウルで焼肉店を経営していた日本人男性、現在の夫である勝又成さんと出会い、結婚。勝又さんも夫婦の北朝鮮料理店の厨房に入り、共に働くことになります。次なる店舗展開を計画していた矢先、日本の公共放送であるNHKが夫妻の店を取り上げ、その報道をきっかけにソウルのお店には多くの日本人観光客が押し寄せるようになりました。

脱北者の文蓮姫さんが経営する千葉の北朝鮮料理店「ソルヌン」に行列する客の様子。脱北者の文蓮姫さんが経営する千葉の北朝鮮料理店「ソルヌン」に行列する客の様子。

来店した日本人客が、冷麺のスープまで残さず飲み干し、空になった皿が並ぶ光景を目の当たりにするたび、文さんは「この北朝鮮の味が日本でもきっと通用する」と確信を深めたと言います。そして、夫の故郷である千葉に北朝鮮料理店をオープンすることを決意。文さん自身、「いつか日本で自分の店を持ちたい」という漠然とした夢を抱いていましたが、まさかこれほど早く実現するとは想像しておらず、NHKの取材が大きな転機となったと感謝の言葉を述べています。

店名「ソルヌン」に込められた故郷への想い

北朝鮮料理店「ソルヌン」という特徴的な店名には、文さんの故郷への温かい思いが込められています。「正月の雪」という意味を持つこの名前は、2019年の正月、YouTubeで偶然目にした北朝鮮の子供たちが「正月の雪よ、降れ」という有名な曲に合わせて踊る公演の動画に感動したことが由来だそうです。北朝鮮では、正月の雪が豊作をもたらす縁起の良い兆しとされているため、そうした意味合いも込められています。店名一つにも、彼女のルーツと文化的な背景が深く息づいていることが伺えます。

在日親戚が繋いだ日本との縁

文さんは北朝鮮で生まれ育ちましたが、結婚前から日本に対して特別な意識を抱いていました。その理由は、彼女の祖父母が皆「在日朝鮮人」であり、1959年から始まった「帰国事業」によって北朝鮮へ渡ったという家族の歴史にあります。その後も日本に住む親戚が毎年北朝鮮を訪れ、衣服など様々な品々を持参し、「日本は本当に良い国だよ」と日本の文化や暮らしについて語って聞かせたと言います。

外国の情報がほとんどない閉鎖的な北朝鮮で育った文さんにとって、親戚から直接聞く日本の話は自然と信頼できるものでした。そのため、日本の文化や社会に対しては幼い頃から親しみと良い印象を持っていたと語ります。この初期の交流が、後の日本での生活やビジネスの基盤を築く上で重要な役割を果たしたのでしょう。

予想外の大盛況、夫婦二人三脚の日々

日本で北朝鮮料理店「ソルヌン」をオープンした当初、文さん夫妻は特別な宣伝活動を一切行っていませんでした。チラシ一枚すら配らず、夫婦二人で「地元の皆さんに少しずつ広まっていけばいいな」という控えめな思いで店を始めたそうです。

しかし、開店初日からまさかの大盛況。予想外の客足に、文さんは心底驚いたと言います。オープンして最初の1ヶ月間は、夫婦二人だけで営業を切り盛りしていたため、休む時間もほとんどありませんでした。夜9時にお客様が帰り、そこから全てのテーブルの片付けと皿洗い、翌日の仕込みを終えて店を後にするのは深夜2時になる日々が続いたそうです。まさかこれほどまでに繁盛するとは夢にも思っていなかったと、当時の苦労と喜びを振り返りました。北朝鮮の伝統的な味と、文さん夫妻の真摯なもてなしが、日本の地で確かな支持を得ている証です。

まとめ

脱北者である文蓮姫さんが、母から受け継いだ本場の北朝鮮料理を日本で広め、大きな成功を収めた「ソルヌン」の物語は、食を通じて文化や国境を越える可能性を示しています。NHKの取材をきっかけに日本での開業を決意し、夫と共に予想外の大繁盛を経験した日々は、彼女の料理への情熱と困難を乗り越える強い意志の表れです。店名「ソルヌン」に込められた故郷への思い、そして在日親戚との縁が育んだ日本への親しみは、彼女の挑戦を後押ししました。千葉の地で多くの人々を魅了する「ソルヌン」は、単なる北朝鮮料理店に留まらず、異文化理解と夢の実現を象徴する場所として、これからも多くの物語を紡ぎ続けるでしょう。


参考文献: