パチンコ運営会社『デルパラ』社長ら逮捕:参院選での組織的買収約束か

8月26日、パチンコ店運営会社「デルパラ」の山本昌範(本名・李昌範)社長(50)ら幹部6人が、7月の参院選における公職選挙法違反(買収約束)の疑いで警視庁と7県警の合同捜査本部に逮捕された。この事件は、国政選挙における大規模な組織的買収の可能性を浮上させ、日本の民主主義の根幹を揺るがすものとして社会に大きな波紋を広げている。逮捕後、送検される山本容疑者の姿は、事件の重大性とは裏腹に、ある種の動揺を招くものだった。

パチンコ運営会社社長ら、公職選挙法違反で逮捕

今回逮捕されたのは、「デルパラ」を運営する企業グループの社長である山本昌範容疑者と、同社の幹部ら計6名。容疑は、7月に行われた参議院議員選挙の全国比例区に自民党公認で立候補し落選した阿部恭久氏(66)に対し、組織的な投票を促すために買収行為を行ったというものだ。

報道によると、山本容疑者らは約60人の従業員に対し、阿部氏に投票するよう指示。さらに、投票後に阿部氏の名前を記載した投票用紙の写真を送付すれば、残業代名目で3000円から4000円の報酬を支払う約束をした疑いが持たれている。

公職選挙法違反容疑で逮捕され、送検されるパチンコ店運営会社「デルパラ」の山本昌範社長。公職選挙法違反容疑で逮捕され、送検されるパチンコ店運営会社「デルパラ」の山本昌範社長。

この事件が発覚するきっかけとなったのは、「デルパラ」が今年1月に鹿児島市の「城山観光」から買収したパチンコ店「モリナガ」の従業員からの内部告発だった。「モリナガ」の店舗は「デルパラ」系列となった後も名前を変えずに運営されていたが、この従業員が店長に対し「これは違法ではないか」と指摘したことから、警視庁による捜査が開始された。ウェブ会議に出席した「モリナガ」の関係者は、「上からの指示は絶対であり、従業員にそのまま指示を伝えた」という趣旨の供述をしていると報じられており、組織的な指示系統があったことが示唆されている。

阿部恭久氏とパチンコ業界の深い関係

では、なぜ「デルパラ」の幹部らが阿部氏への投票を組織的に働きかけたのか。その背景には、阿部恭久氏がパチンコ業界において長年にわたり築き上げてきた深い関係と、業界におけるその強い影響力がある。

阿部氏は1992年にパチンコ機器メーカーのサンキョーに入社し、2001年には社長に就任。その後、2014年にはパチンコ業界の主要団体である「全日本遊技事業協同組合連合会」の理事長に就任し、業界のトップとしてその発展に貢献してきた。同時に、ギャンブル依存症対策にも尽力するなど、業界の健全化にも取り組む姿勢を見せていた。2022年には、パチンコ業界が独自に結成した政治団体「全日本遊技産業政治連盟」の初代会長に就任し、現在は最高顧問という要職にある。

今回の参院選は、阿部氏にとって初の出馬であり、パチンコ業界が独自に擁立した史上初の「組織内候補」として注目を集めていた。山本容疑者らが阿部氏を応援したいという意図はあったにせよ、公職選挙法に抵触するこのような手段を選んだことは、業界全体の信頼にも関わる重大な問題となっている。

国政選挙史上最大規模か?警察庁長官の厳正なコメント

今回の事件では、実際に投票行為を行った従業員が250人以上に上るとされており、この数は平成以降の国政選挙における買収事件で最大の摘発者数となる見込みだ。事件の規模と社会的影響の大きさが浮き彫りとなっている。

8月28日、警察庁の楠芳伸長官は定例記者会見で、本件について言及。「悪質な選挙違反事件であり、法と証拠に基づき厳正に対応した。警視庁などが事件の全容解明に向けた捜査を強力に推進する」と述べ、捜査の徹底を強調した。さらに、長官は「選挙が公正に行われ、国民の意思が正しく政治に反映されることは民主主義の根幹を成すものであり、選挙違反取り締まりを通じて選挙の公正確保に寄与することは警察の重要な責務だ」と語り、この事件が日本の民主主義にもたらす重大な影響について強い懸念を示した。

自身を支持する企業幹部らが引き起こしたこの事件を、阿部氏はどのように受け止めているのか、その見解が注目される。しかし、阿部氏の事務所に問い合わせを行ったが、期日までに返答は得られなかった。

護送車に乗り込む際の山本容疑者の表情は、カメラを睨みつけた後、歯を見せて笑うような仕草を見せたという。その様子からは、自身が起こした事件の重大性を十分に認識しているとは考えにくいという見方も出ている。本件の全容解明と、それに対する社会的責任の追及が求められる。

参考文献