ハンファオーシャンが最大60兆ウォン規模に上るカナダ哨戒潜水艦事業(CPSP)において、海外の有力防衛産業事業者を抑え、ドイツのTKMSと共に最終候補の座を勝ち取った。これは、わずか30年前にドイツから潜水艦技術を学んだ韓国が、今や世界の舞台でその師と堂々と競争するまでに成長したことを示す歴史的な転換点となる。カナダ海軍は1998年に英国海軍から導入した2400トン級のビクトリア級潜水艦4隻を置き換えるため、最大12隻のディーゼル・バッテリー推進潜水艦の導入を計画している。導入契約だけで約20兆ウォン、さらに整備・修理・オーバーホール(MRO)費用まで含めると、事業全体の規模は60兆ウォンに達する巨大プロジェクトであり、韓国の海洋防衛産業能力への世界的な注目が改めて高まっている。
韓国潜水艦技術の躍進:模倣から自立、そして世界へ
初期技術導入の苦難と職人の情熱
韓国はかつて、自力で潜水艦を建造できない国だった。1991年にドイツのTKMSから「張保皐(チャンボゴ)I」級潜水艦3隻を導入することで、初めて潜水艦を保有した。このうち1号艦はドイツで建造され、残りはドイツの設計を基に韓国で建造された経緯がある。当時の大宇造船海洋(現ハンファオーシャン)は、潜水艦購入の条件として職務教育のためにドイツへ社員を派遣。彼らはドイツTKMSが技術を直接教えることはないと悟り、同僚と役割を分担して技術情報を収集し、夜には宿舎のベッドの下に隠れて技術日誌を整理するなどの努力を重ね、文字通り「肩越し」に組み立て技術を習得した。現在ハンファオーシャンの生産職最高監督者を務めるチョン・ハング氏は、当時の苦労を振り返り、その情熱が今日の技術基盤を築いたと語っている。
輸出国としての地位確立と国産化の成功
こうした地道な努力が実を結び、韓国は潜水艦輸出国へと飛躍を遂げた。2011年には大宇造船海洋を通じてインドネシアへドイツ209型を基盤とした張保皐I級潜水艦3隻を輸出し、潜水艦輸出国としての第一歩を踏み出した。その後、2019年には同じ機種をさらに3隻追加で受注し、合計6隻、約20億ドル相当の輸出を達成した。そしてついに2021年、韓国が設計から建造まで独自に進めた3000トン級の張保皐Ⅲ級潜水艦「島山安昌鎬(トサン・アンチャンホ)」が就役。これは、韓国が潜水艦技術において完全に自立したことを内外に示す画期的な出来事となった。
カナダ哨戒潜水艦事業(CPSP)における韓国の優位性
世界の強豪を抑えて最終決選へ
カナダ哨戒潜水艦事業の入札には、ドイツTKMSをはじめ、フランスのナバルグループ、スペインのナバンティアといった欧州の有力造船所が参加した。その厳しい競争環境の中、最終決選候補に残ったのは、韓国企業(ハンファオーシャンとHD現代重工業がワンチームで参加)とドイツTKMSの2者のみとなった。これは、韓国の潜水艦技術が世界のトップレベルにあることを証明するものである。
高性能な張保皐Ⅲバッチ2級潜水艦の提案
今回カナダに提案された張保皐Ⅲバッチ2級潜水艦は、非大気依存推進(AIP)システムを搭載し、21日以上の水中作戦を可能にする。最大航続距離は7000カイリ(約1万2900キロメートル)に達し、カナダ海軍が要求する北極海での長期作戦能力も十分にクリアする性能を持つ。特に、リチウムイオンバッテリー技術の採用により、既存の潜水艦と比較してエネルギー効率性と作戦持続性が大幅に向上しているとの評価を受けている。また、HD現代重工業はAIP基盤の214級潜水艦設計・建造経験を活かし、技術諮問と核心エンジンシステムの協力に努めることで、プロジェクトの技術完成度を高めるとしている。
カナダ潜水艦事業の最終候補に残ったハンファオーシャンが建造する張保皐Ⅲバッチ2級潜水艦の雄大な姿
世界市場での新たな機会と信頼の拡大
カナダ海軍の入札で最終候補に残ったという経歴は、今後、ポーランド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦など、潜水艦導入を検討している国々への韓国潜水艦進出に肯定的な影響を及ぼすと見られている。これらの国々はいずれも戦力現代化と海洋防衛力強化を推進中であり、韓国型潜水艦の技術力と生産能力への注目度が高い。さらに、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間でも、韓国製艦艇に対する信頼が次第に拡大しており、国際的な評価の向上に繋がっている。
韓国防衛産業学会のチェ・ウソク理事長は、「30年前に技術を伝授された韓国が、今や世界市場でドイツと対等に競争している。潜水艦は単純な戦闘プラットフォームではなく、総合海洋技術の結晶であるだけに、今回の受注戦の結果は韓国の産業の位置付けと技術主権を見極める分岐点になるだろう」と述べ、今回の事業の重要性を強調している。
結論
カナダ潜水艦事業における韓国企業の最終候補入りは、韓国が潜水艦技術の模倣から自立、そして世界のトップランナーと肩を並べるまでに成長したことを明確に示している。これは単なるビジネスチャンスに留まらず、韓国の海洋防衛産業が培ってきた技術力と国際的信頼性を確立する象徴的な出来事と言える。今後、世界の防衛産業市場において韓国の存在感は一層高まり、技術主権を確立した国としての地位を不動のものとすることが期待される。
参考文献
[1] ハンファオーシャン、カナダ潜水艦事業最終候補に…韓国型技術力で世界に挑戦(中央日報日本語版) – Yahoo!ニュース. (2024年4月22日). https://news.yahoo.co.jp/articles/4a3a56bbc791cb46396b8eb1b69f91202b7842ba