アメリカ中央情報局(CIA)本部の敷地内に設置された巨大な暗号彫刻『クリプトス』。その最後の未解読部分「K4」は、35年もの長きにわたり、世界中の暗号解読者たちを悩ませてきました。この世界で最も有名な暗号の一つであるK4の答えが、今秋ついに明らかにされることになりました。作者である芸術家ジム・サンボーン氏が、解読文を記した文書をオークションに出品すると発表し、その予想落札価格は最大で7400万円に達するとみられています。この世紀の謎の終焉は、海外メディアからも高い関心を集めています。
CIA本部を飾る「クリプトス」の概要とK4の謎
米東海岸バージニア州ラングレーに位置するCIA本部の美しい中庭には、1990年11月3日に公開された彫刻作品『クリプトス(Kryptos)』が鎮座しています。この作品は、高さ約3.6メートル、幅約6メートルにも及ぶ巨大な銅製の曲面で構成されており、まるで風になびく旗のようなS字のフォルムが特徴です。その表面には、合計約1800文字のアルファベットがくり抜かれており、見る者を惹きつけます。
銅板に刻まれたこれらの文字は、「K1」から「K4」までの4つの暗号セクションと、解読を補助する表から成っています。これまでにK3までの3つのセクションは解読されてきましたが、最後の「K4」に当たる97文字は未解読のまま残されています。CIA職員を含む世界中の暗号解読者たちがこの35年間挑戦を続けてきましたが、その鉄壁の守りを崩すことはできませんでした。
CIA本部「ジョージ・ブッシュ情報センター」敷地内に設置された、謎の暗号彫刻「クリプトス」
35年越しの解答がオークションへ:予想価格は最大7400万円
現時点で残されている最後の暗号「K4」の解読結果が、今年中にいよいよ明らかになる見込みです。今年8月、ワシントンD.C.出身の彫刻家である製作者ジム・サンボーン氏は、その解答をオークションに出品すると発表しました。ワシントン・ポスト紙によると、今年11月20日にボストンで開催されるRRオークションにて、未解読のK4セクションの解答を記した文書が競売にかけられるとのことです。
予想落札価格は30万ドルから50万ドル、日本円にして約4400万円から約7400万円に達するとされています。同社の副社長ボビー・リビングストン氏は、さらに高値がつく可能性もあると述べており、その注目度の高さが伺えます。英フィナンシャル・タイムズ紙は、この貴重な解答文書が装甲車で輸送されると報じています。サンボーン氏の健康状態が完全ではない中、世界的な興味を集めてきたこの謎にどのような幕引きを行うか、氏は近年深く悩んできたといいます。公開された手記の中で、「私はもはやK4コードの97文字を維持するための物理的、精神的、財政的リソースを持っていません」と、現在の心境を率直に吐露しています。
「ダ・ヴィンチ・コード」が火をつけた世界的注目
クリプトスが世界的な注目を集めるきっかけの一つとなったのは、ダン・ブラウン氏によるベストセラー小説『ダ・ヴィンチ・コード』と続編『ロスト・シンボル』でした。これらの小説が映画化されたことで話題はさらに沸騰し、ノーザン・バージニア・マガジン誌によれば、一時期は全Google検索の中でもトップクラスの検索ワードとなりました。当時、サンボーン氏の受信箱は、謎を解こうとする人々からのメールで溢れかえったといいます。
現在でも、この難解な謎に挑む人々は世界中に広がり続けています。かつてあるCIA職員は、昼休みを合計400時間も投じて謎の一部を解き明かしたものの、全体像の把握には至りませんでした。
作者が語る真意と元CIA長官の秘匿
クリプトスの設置当時、CIA長官であったウィリアム・ウェブスター氏だけは、製作者から解答を直接渡されていたとされています。しかし、ウェブスター氏が今年8月に101歳で永眠した今、その答えを完全に握るのは作者であるジム・サンボーン氏ほぼ一人となりました。今回のオークションは、作者自身の健康状態や財政的な理由、そしてこの世界的謎に終止符を打ちたいという強い思いから決断されたものとみられます。長年の沈黙を破り、ついにその全貌が明かされることは、暗号解読愛好家のみならず、世界中の人々にとって大きな衝撃と感動をもたらすことでしょう。
今回のK4の解読文書の公開は、単なる暗号解明に留まらず、アート、歴史、そして人間の知的好奇心が交差する象徴的な出来事として、長く記憶されることになりそうです。
参考文献
- Yahoo!ニュース: CIA本部の巨大彫刻『クリプトス』、最後の暗号「K4」の解答が競売へ…落札予想価格は最大7400万円 (PRESIDENT Onlineより)
- PRESIDENT Online: CIA本部の巨大彫刻『クリプトス』、最後の暗号「K4」の解答が競売へ…落札予想価格は最大7400万円
- The Washington Post
- Financial Times
- Northern Virginia Magazine