ルポ 熟年離婚:孤独と依存症、夫婦関係の深淵

専業主婦の女性が抱える孤独と自己否定は、アルコール依存症と摂食障害へと繋がり、夫との激しい衝突を繰り返す中で家族関係をも蝕んでいきました。依存症治療を経てアルコールを断ち切った後も、彼女に残されたのは深い寂しさと、不器用な人間関係に起因する苦しみでした。これは、精神的な問題を抱えながら夫婦関係と子育てに奮闘する一人の女性の軌跡を追ったルポルタージュです。本稿では、その苦悩の始まりから、子どもたちを巻き込んだ夫婦間の確執までを詳述します。

専業主婦が直面する孤独と自己否定:依存症への道

関西地方に住む47歳の女性にとって、2002年に結婚し専業主婦となった生活は、想像を絶する孤独な日々でした。激務で不在がちな夫、見知らぬ街、そしてやることのない長い一日を、彼女は食べる行為と嘔吐、そして飲酒でやり過ごすしかありませんでした。幼少期から「誰からも愛されない」「人から嫌われている」という強い自己否定感を抱えていた彼女は、長男である兄と異なり、両親から可愛がられた記憶がないと言います。特に父親との会話は少なく、母親も父親の言いなりでした。

高校時代、「痩せれば好かれるかもしれない」という思いから始まった摂食障害は、やがて過食嘔吐へとエスカレート。大学ではコンパで酒を覚え、人との会話が苦痛だった彼女は、アルコールに頼ることで苦しまずに話ができるようになりました。これらの行動は、彼女が抱える根深い孤独と自己否定から逃れるための、必死な逃避行だったのです。

「運命の出会い」から「激しい衝突」へ:夫婦関係の破綻

23歳の時、京都市内のライブハウスで当時31歳の夫と出会いました。夫の親しみやすい性格と「かわいい」と言ってくれる言葉は、彼女にとって初めて経験する温かい感情でした。「初めて出会ったとき、背中を天使が通ったように温かくなった」と彼に伝えたほど、心がときめいたと言います。しかし、内心では常に「嫌われるのではないか」という不安が渦巻いていました。自信がなく根暗な自分を隠すため、彼女は精一杯明るく振る舞い続けました。

結婚前から抱えていた過食嘔吐と飲酒癖は、隠し通すつもりでしたが、半年ほどで夫に知られてしまいます。夫の前では過食嘔吐を我慢したものの、酔った姿を見せるようになりました。夫の散らかった衣服を見るたびに募るイライラは、「あんたの後を回って片付けせなあかんのか」「私は家政婦か」といった悪態へと変わり、口論は激化。「笑顔の絶えない家庭をつくるって言うたくせに。私の人生返せ!」と過去の発言を責め立てるようになり、夫が逆上して殴りかかってくると、腕に噛みついて抵抗するまでになりました。彼女の心は複雑で、「彼が好き。嫌われるのが怖い。でも、何でこんなに寂しい思いをしなければあかんのって、恨んでた」と当時の感情を語っています。

深い悩みを抱える女性のイメージ。熟年離婚やアルコール依存症の苦しみを象徴する。深い悩みを抱える女性のイメージ。熟年離婚やアルコール依存症の苦しみを象徴する。

子どもたちの目に映る「依存症の影」:深まる家族の苦悩

2005年、双子を出産した当初、彼女には赤ん坊を慈しむ気持ちがありました。しかし、その喜びも長くは続かず、過食嘔吐は減ったものの、アルコールの摂取量は増加の一途を辿ります。ついに台所にある料理酒にまで手を出すようになり、以前にも増して感情のコントロールが利かなくなっていきました。

酔いに任せて「早く食べろ!」と子どもの口に食べ物を無理やり詰め込んだり、寒い日に嫌がる子どもに濡れた洗濯物を着せようとしたりするなどの行動が見られるようになりました。夫婦喧嘩の際には、子どもたちの目の前でも互いに殴り合うことが常態化し、家庭は安らぎの場ではなく、常に緊張と暴力に満ちた場所へと変貌していったのです。彼女の依存症は、子どもたちの心にも深い影を落とし、家族全員を苦しめる結果となりました。

終わりに

このルポルタージュで描かれた女性の物語は、専業主婦が抱える孤独感、幼少期のトラウマ、そしてそれに起因するアルコール依存症や夫婦関係の深刻な問題を浮き彫りにしています。自己否定と依存症の悪循環の中で、夫婦間の激しい衝突がエスカレートし、幼い子どもたちまでもがその苦悩を間近で経験するに至りました。彼女の人生に希望の光が差し込むには、これらの根深い問題にどう向き合い、乗り越えていくかが問われます。


参考文献:

  • 『ルポ 熟年離婚』より一部抜粋、再編集