韓国社会において、経済格差は深刻な問題として若者たちに重くのしかかっています。親の経済力によって進学や就職の機会が左右される不条理な現実に苦しむ声は多く、このような状況を「地獄」と表現するスラング「ヘル朝鮮」が生まれるほどです。本稿は、フリーライター菅野朋子氏の著書『韓国消滅の危機 人口激減社会のリアル』の一部を再編集し、韓国の若者が直面する貧困と格差の実態に迫ります。
経済格差が生んだ「88万ウォン世代」
2000年代半ば以降、韓国では若者の失業と貧困が世代全体に共通する問題として浮上しました。特に、IMFショック(アジア通貨危機)を契機に非正規職が急増し、その10年後となる2007年には「88万ウォン世代」という言葉が広く流行しました。この言葉は、非正規職の月収手取り額が当時で約11万円(88万ウォン)であることを意味し、経済格差をテーマにした本のタイトルから広まったものです。
IMFショック以降、韓国の雇用市場は大きく変化し、非正規雇用の割合が急増しました。特に20代の非正規職の割合は高く、同書では将来的に20代の95%が非正規職になる可能性も指摘されています。当時の非正規職の平均月収119万ウォン(約15万円)に20代の平均給与比率0.74を乗じて推算されたのが88万ウォンでした。この「88万ウォン世代」は、日本における「就職氷河期世代」や、欧州の「1000ユーロ世代」とも重なる、努力しても報われにくい世代の苦境を象徴する言葉として認識されています。
韓国の若者が厳しい社会情勢に直面している様子
努力が報われない社会「ヘル朝鮮」の広がり
2008年にはリーマンショックが発生し、韓国の青年失業率は再び大きく悪化しました。この年の7.1%から翌年には8%に上昇し、その後も2014年には9.0%に達すると、2020年まで9%台前後で推移する厳しい状況が続きました。
こうした背景の中、2010年頃からインターネットコミュニティサイトで「ヘル朝鮮(チョソン)」という言葉が頻繁に使われるようになります。これは、どれだけ努力しても報われず、富める者だけが悠々と暮らし、社会全体が不合理であるという韓国社会への絶望感を表現したスラングです。特に若い世代にとって、自身の能力や努力だけでは現状を打破できないという閉塞感が、「ヘル朝鮮」という言葉に凝縮されていると言えるでしょう。
まとめ
韓国社会における若者の貧困と経済格差は、単なる一時的な現象ではなく、IMFショックやリーマンショックといった経済的激動を経て、社会構造に深く根付いた問題となっています。「88万ウォン世代」や「ヘル朝鮮」といった言葉は、若者たちが直面する厳しい現実と、将来への不安、そして社会に対する不満を明確に示しています。親の経済力が子の人生を左右する現状は、努力が公正に評価される社会の実現に向けた課題を浮き彫りにしています。