近年、世界中で局地的な豪雨の頻度が増加し、都市部での内水氾濫が深刻な社会問題となっています。アスファルトやコンクリートで覆われた現代の都市は、かつて土壌が持っていた雨水を自然に受け入れる力を失い、その脆弱性を露呈しています。しかし、この課題に対し、日本から画期的な解決策が生まれています。コンクリートの概念を覆す新技術「ドットコン」は、都市の地表に「呼吸孔」を設け、水との共生を可能にする未来のインフラとして注目を集めています。
人類と水、そして都市化がもたらした課題
古来より、人類の歴史は、時に恵みを与え、時に牙をむく「水」との絶え間ない格闘の歴史でした。農耕文明の発展と共に治水技術は進化し、人々は水の恩恵を受けながら生活を築いてきました。しかし、産業革命以降の急速な都市化は、この関係に新たなひずみを生じさせました。都市は効率性と快適性を追求し、土だった道をコンクリートやアスファルトで舗装。これによりスムーズな移動は可能になったものの、地表の大部分が不浸透性となり、雨水が地下に浸透する経路が大幅に減少したのです。
その結果、都市部に降った雨水は行き場を失い、短時間で排水路や下水道に集中。市街地の排水能力を超過した水がマンホールなどから溢れ出す「内水氾濫」を頻発させています。東京都内における水害被害の約9割が、河川の氾濫(外水氾濫)ではなく、この内水氾濫によるものだという事実は、現代都市が「水を弾く巨大な皿」と化している現状を雄弁に物語っています。特にゲリラ豪雨のような局地的な大雨に対して、都市は極めて脆弱な姿をさらしています。
都市の舗装路面と雨水の浸透を表現するイメージ写真
「土の力」を取り戻す画期的技術「ドットコン」
このような状況を打破すべく、かつて土が持っていた「雨水を受け入れる力」を現代の舗装に取り戻そうという試みが、日本で具体化されました。それが「ドットコン(Dotcon)」です。この革新的な技術を世に送り出したのは、中卒からコンクリート業界一筋で叩き上げてきた異色の起業家、小澤辰矢氏です。
ドットコンのコンセプトは、その名の通り「穴の開いたコンクリート」という非常にシンプルながら画期的なものです。「ドット(穴)」で構成された構造によって、雨水が地面にしみ込むための“呼吸孔”を人工的に確保します。小澤社長は「ドットコンそのものが『浸透施設』だ」と語ります。従来の都市インフラでは、舗装は単なる“ふた”であり、雨水処理の主役は別に設けられた排水管や貯留槽でした。しかし、ドットコンは舗装そのものが貯留し、ゆっくりと地中へ還元する役割を果たします。これにより、下水道や河川への急激な負荷を軽減し、都市の最も喫緊の課題である内水氾濫のリスクを大幅に抑制する効果が期待できます。ドットコンは単なる構造物ではなく、都市の水循環を再生する「思想」そのものと言えるでしょう。
日本から世界へ、持続可能な都市の未来を創造する
局地的大雨による都市型水害が深刻化する中、日本の先端技術である「ドットコン」は、内水氾濫対策の新たな切り札として大きな期待を集めています。この「穴の開いたコンクリート」がもたらすのは、単なる排水機能の向上だけではありません。都市の地表に自然な水循環を取り戻し、人々と水が調和して暮らせる持続可能な都市の未来を創造する可能性を秘めています。小澤辰矢氏のような先見の明を持つ起業家と、それを支える日本の技術力が、世界の都市が抱える環境問題に光を当てることとなるでしょう。
出典:
橋本幸治『未来を見通すビジネス教養 日本のすごい先端科学技術』(かんき出版)





