先月末に101歳で亡くなった中曽根康弘元首相に一度だけ会ったことがある。場所はソウル。2003年2月に盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏が大統領に就任した際、訪韓した中曽根氏が在韓日本メディアを対象に、盧氏との会談内容を説明してくれた。
中曽根氏は当時84歳で、この年、後に政界から引退。現役政治家としての末期で、首相在任当時の記憶を思い起こせば「年をとったなあ」というのが第一印象だった。会見の細かな内容は覚えていない。ただ、中曽根氏は自分でとったメモを大事そうにめくり、「ちょっと待ってくださいね」「こうも言っていましたね」などと、かみくだくように会談内容を説明してくれた。メモを凝視し会談を振り返る口調に、堅さは全くなかった。
後年、日本に帰任した際、政治部のベテラン記者にその話をすると、やはり「中曽根さんはメモをしっかりとる人なんだ」との言葉が返ってきた。メモをたどって会見してくれた政治家は、筆者にとって中曽根氏が初めてだった。
職業がら筆者にはメモは必須だ。取材以外でも、考えついたことのメモは心がけている。時間とともに、自分の発想でさえ忘れてしまうことがあるためだ。メモ書きの習慣。個人的なことだが、日本の元首相から教わったことは今も生きている。(名村隆寛)