2025年度の最低賃金は、全国47都道府県の加重平均が1121円に達し、昨年から過去最高の66円引き上げられました。これにより、全国で1000円を下回る都道府県はなくなりました。一見、労働者にとっては喜ばしいニュースに映るこの賃上げですが、現在の日本経済の実情を鑑みると、手放しでは喜べない「光と影」を併せ持つ状況が見えてきます。本稿では、この最低賃金引き上げが日本経済、特に中小企業に与える影響と、持続可能な賃上げの条件について深掘りします。
過去最高の引き上げと政府の目標
今年の最低賃金は、全国加重平均で1121円となりました。最高額は東京都の1226円、最も低い高知県、宮崎県、沖縄県でも1023円を記録し、すべての都道府県で1000円の大台を超えました。2021年度の全国加重平均額が930円だったことを考えると、わずか5年で2割以上も増加した計算になります。この急激な引き上げの背景には、政府や労働組合からの強い圧力があります。政府は「2029年までに最低賃金を1500円にする」という明確な目標を掲げており、その実現に向けた動きが加速しているのです。
中小企業が直面する「成長なき賃上げ」の現実
多くの働く人々はこの決定を好意的に受け止めていますが、経済の専門家や中小企業の経営者からは懸念の声が上がっています。今回の最低賃金の上昇が、真に日本の経済成長を反映したものであるならば問題ありません。しかし現実には、経済全体が力強く成長しているとは言い難い状況です。多くの中小企業からは、「売り上げも利益も増えていない状況で、人件費をこれ以上増やさなければならないのは、事業継続を危うくする」という切実な声が聞かれます。
雇用主が賃金を上げるための最も基本的な条件は、従業員一人ひとりの生産量が増えることです。インフレによって原材料費が上がった分を販売価格に転嫁し、それによって得られた利益を賃上げに充てるだけでは、実質賃金は増えません。もし実質賃金を増やそうと、販売価格の上昇分以上に賃上げを実施すれば、人件費比率が過度に高まり、企業は利益を上げられなくなり、経営を圧迫することになります。
2025年度の最低賃金引き上げと日本経済の課題
生産性向上が伴わない賃上げのリスク
現在、賃上げや可処分所得の増加を求める議論が活発ですが、肝心な生産性が向上していない状況での賃上げは、企業体力のある大企業であればまだしも、余裕のない中小企業にとっては死活問題です。人件費の増加は人員削減(人減らし)につながりかねず、経営が逼迫している場合には、最悪、倒産という結末を迎える可能性もあります。過去には、赤字に転落した企業で労働組合からの激しい賃上げ要求を会社が受け入れた結果、事業継続が困難になり倒産に至った事例も報告されています。このように、適切な条件が整わない状況での賃上げは、企業にとって大きなリスクを伴うことを認識する必要があります。賃上げを望むのであれば、その前提となる経済基盤、すなわち生産性の向上を先行させることが極めて重要だと言えるでしょう。
日本経済の持続的な成長に向けた賃上げ戦略
2025年度の最低賃金引き上げは、労働者の生活向上に寄与する一方で、経済の実態との乖離が中小企業に重い負担をかける可能性を浮き彫りにしました。持続可能で実質的な賃上げを実現するためには、単なる金額の引き上げだけでなく、生産性向上に資する投資、技術革新、そして人材育成が不可欠です。政府、企業、そして労働組合が一体となり、これらの課題に連携して取り組むことで、初めて日本経済全体の活性化と、全ての働く人々が豊かさを実感できる社会の実現につながるでしょう。





