ミシュランガイド東京2026発表:星付きレストランは減少も、新たな美食の潮流?

2025年9月25日、世界の美食界が注目する『ミシュランガイド東京2026』の全セレクションが、昨年同様ウェスティンホテル東京で発表されました。東京は引き続き「世界で最も星付き掲載店が多い都市」という栄誉を保持していますが、その内訳と背景には、新たな美食の潮流が垣間見えます。今回は、この最新発表から見えてくる東京のレストランシーンの現在と未来を探ります。

ミシュランガイド東京2026:最新データと東京の地位

今年の掲載軒数は合計526軒(新規65軒、昇格7軒)で、日本初登場となる「東南アジア料理」を含む37の多様な料理カテゴリーから構成されています。その詳細な内訳は以下の通りです。

  • セレクテッドレストラン:252軒(新規38軒)
  • ビブグルマン(価格以上の満足度):114軒(新規16軒)
  • 一つ星:122軒(新規11軒、昇格3軒)
  • 二つ星:26軒(新規0軒、昇格3軒)
  • 三つ星:12軒(新規0軒、昇格1軒)
  • ミシュラングリーンスター(持続可能性):13軒(新規1軒)

特筆すべきは、星付きレストランの総数が160軒となり、ミシュランガイドが2007年に日本に上陸して以来、東京が世界で最も多くの星付きレストランを擁する都市としての地位を堅持している点です。また、持続可能な食文化に積極的に取り組むレストランに贈られるミシュラングリーンスターにおいても、東京は世界最多の軒数を誇ります。ビブグルマンやセレクテッドレストランの数も増加しており、東京の美食の裾野が広がり、より多様な選択肢が提供されていることを示しています。

星付きレストラン数の減少とその背景

ミシュランガイド東京2026発表会で記念撮影に応じる星付きレストランの料理人たちミシュランガイド東京2026発表会で記念撮影に応じる星付きレストランの料理人たち

東京が依然として世界最多の星を保持している一方で、実は星付きレストランの軒数は減少傾向にあります。2007年の『ミシュランガイド東京2008』では150軒の星付きレストランが掲載されていましたが、2012年の『ミシュランガイド東京・横浜・湘南2012』では東京が247軒とピークを記録しました。その後は増減を繰り返し、2025年版では170軒、そして2026年版では160軒と、着実に減少しています。この数字だけを見ると、東京のレストランシーンに勢いがなくなったようにも見えますが、実はそうとも言い切れません。この背景には、飲食業界における新たな動きが存在します。

新たな潮流:投資ファンドが支える高級レストラン開業

ここ数年、東京の高級レストラン開業をめぐる新たな潮流として、「投資会社による案件」が増加しています。これは、有望な料理人やパティシエを投資対象とし、その独立開業を支援するためにファンドから資金提供や融資を行うスキームです。レストランが利益を上げた後には新会社を設立し、MBO(マネジメント・バイアウト)を通じて最終的に料理人が100%オーナーとなり、投資会社はリターンを得る仕組みです。

個人事業主として独立する場合と比べ、この方法では開業資金に圧倒的な差が生まれます。一般的に1,000万円以上かかるとされるレストラン開業費用に対し、投資ファンドからの支援があればその数倍もの資金を投入することが可能です。これにより、好立地の広い空間、こだわりの内装、最新の厨房設備と効率的な動線、一流のテーブルウェア、そして十分なスタッフを最初から揃えることができます。

さらに、資金面だけでなく、経営、財務、マーケティングといった多岐にわたるノウハウの提供も大きなメリットです。公式サイトの制作や予約システムの最適化、メディアへのアプローチや露出戦略まで、開業後の運営全般にわたる強力なサポートが得られます。このような確立されたスキームにより、才能ある若手料理人やさらなるステップアップを目指す料理人が、豪華絢爛な高級店を出店できるのです。しかし、投資を受けていることを明らかにしない料理人が多く、投資会社も「黒子」に徹するため、その実態はあまり表面化していません。

まとめ

『ミシュランガイド東京2026』の発表は、東京の美食シーンが多様な変化の只中にあることを示しています。星付きレストランの数は減少傾向にあるものの、ビブグルマンやセレクテッドレストランの増加は、より幅広い層に美食が浸透しつつあることを示唆しています。同時に、投資ファンドが料理人の独立を支援し、高級レストランの開業を後押しする新たな潮流は、東京の飲食業界の質と規模をさらに高める可能性を秘めています。こうした動きが、今後どのように東京の美食文化を形成していくのか、継続的な注目が集まります。

参考資料: