AI時代における「学び」の再定義:学歴と「頭のよさ」の未来

「大学受験」は、日本の多くの10代にとって人生最大の節目の一つです。良い大学への進学が、望む職業に就ける可能性を高め、将来の選択肢を広げる側面があるのは事実です。しかし、学歴だけで人生の成功が約束されるわけではないという認識もまた、現代社会において不可欠です。本記事では、立教大学経営学部教授の中原淳氏と「wakatte.TV」のびーやま氏への特別対談を通じ、学歴を超え、大人が学び続けることの必要性、そしてAIが「頭のよさ」の基準をどのように変えていくのかを探ります。

「学歴」がもたらす心の傷:なぜ「地頭バイアス」は生まれるのか

「頭がいい」という基準は、学校教育、特に大学受験の文脈で形成されることが多いと中原氏とびーやま氏は指摘します。多くの人々にとって、学生時代の「お勉強」や「偏差値」といった一つの物差しは、達成感よりもむしろ「心の傷」として残ることがあります。実際、中原氏が数万人を対象に行った大規模なリサーチでは、「自分は頭が良くないから、学んでも意味がない」という「地頭バイアス」を持つ人が相当数存在することが明らかになりました。このバイアスは、特定の評価軸によって「傷つけられてきた」経験に根ざしており、学びへの意欲を阻害する深刻な問題となっています。

学びの未来について思案する若者の姿。学歴社会とAI時代の教育変革を象徴。学びの未来について思案する若者の姿。学歴社会とAI時代の教育変革を象徴。

AIが変える「頭のよさ」の評価基準:選抜方式の未来

現在の大学受験におけるペーパーテストやマークシート方式は、年間60万人以上という膨大な受験生に対し、短期間かつ低コストで合否判定を出すための現状唯一の方法として機能しています。しかし、この選抜方式はテクノロジーの進化、特にAIの導入によって大きく変わる可能性があります。びーやま氏が「受験制度がある限り、地頭バイアスは生み出され続ける」と懸念を示す一方で、中原氏はAIが導入されれば、これまでの「頭のよさ」とは異なる、もっと多様な能力を低コストで評価できるようになるだろうと予測します。これにより、従来の「頭がいい=学歴が高い」という図式が意味をなさなくなる未来も視野に入ってきます。

「一発勝負」からの脱却:大学受験プロセス自体の「学び」へ

企業の人材採用、特に新卒採用の分野では、すでにAIが書類審査から一次・二次面接の代替として導入され始めています。中原氏は、大学受験においても同様のことが可能になれば、現状のような「一発勝負のテスト」である必要がなくなると語ります。最大の課題は「替え玉受験を防ぐための本人認証」ですが、全国にテストセンターを設け、本人認証を行った上で受験生が何度もテストに挑戦できるようになれば、受験のプロセスそのものが「学び」の機会に変わります。これにより、受験が「心の傷」を与えるものから、自己成長とスキルアップを促すポジティブな体験へと変容する可能性を秘めているのです。

学びは、大学受験や学歴といった特定の時期や指標だけで測られるものではありません。AI時代の到来は、従来の「頭のよさ」や評価基準を再定義し、生涯にわたる学び直しやリスキリングの重要性を一層高めています。過去の学歴に囚われることなく、変化に対応し、自らの可能性を広げ続ける姿勢こそが、これからの時代を生き抜く鍵となるでしょう。

参考文献

  • 中原淳(テオリア)『学びをやめない生き方入門』
  • wakatte.TVのびーやま『17歳のときに知りたかった受験のこと、人生のこと。』