宇久島メガソーラー:過疎の島に迫る変化と住民の複雑な胸中

長崎県宇久島で現在、日本最大級のメガソーラー(太陽光発電)施設の建設が進められています。日照に恵まれた島内の林地や荒れ地は、京セラ製の太陽光パネルが設置され始め、かつてののどかな原野の風景は徐々に姿を変えつつあります。本記事では、この大規模な開発事業が宇久島の住民にどのような影響を与え、彼らがこの変化をどのように受け止めているのか、経済的「恵み」と環境的「災厄」の間で揺れる複雑な心情を深掘りします。

変貌する島の景観と事業の概要

『週刊プレイボーイ』誌の取材班が9月下旬に宇久平港に降り立つと、九電工(現クラフティア)がチャーターした専用船「たらまゆう」が、メガソーラー建設資材を積んで着岸していました。港の奥には、伐採された木々を刻んだチップの山が広がり、次々と船に積み込まれて鳥取・境港へバイオマス燃料として運ばれる光景が見られました。島を一周すると、削られた山肌や黒い太陽光パネルが広がる斜面があちこちに見受けられます。県道沿いの空き地には梱包されたパネルが山積され、作業員の姿も確認されました。かつて牛が草をはんでいた放牧地の一部にも、わずかに残った牧草地が残り、宇久島の象徴的な原風景が急速に失われつつある現実を物語っています。

宇久島は、かつて1万2000人もの人口を擁していましたが、2006年の佐世保市編入を機に若者の島離れが加速し、現在の人口は約1600人まで減少しました。深刻な人口減と過疎化に苦しむ中、約10年前に「降って湧いたようにメガソーラー計画が動き出した」と佐世保市職員は語ります。この計画は、島の山林の約4分の1を伐採・開発し、そのうち10分の1に約150万枚の太陽光パネルを設置するという壮大なものです。完成すれば、国内最大規模のメガソーラーエリアが誕生し、佐世保市内約10万世帯分の電力(約51.5万MWh)を賄うことができるとされています。1kWhあたり約40円の固定価格(FIT)で九州電力に売電され、総事業費約2000億円に対し、年間200億円の売電収入を見込んでおり、佐世保市にも年間約20億円の税収が見込まれる経済的メリットは大きいとされています。

京セラ製太陽光パネルが広がる宇久島の林地京セラ製太陽光パネルが広がる宇久島の林地

計画の変遷と住民合意への道のり

当初、宇久島で計画されたのは風力発電事業でした。しかし、2009年に開催された住民説明会では、1800人を超える署名による反対運動が起こり、当時の朝長則男市長も「住民合意がなければ難しい」と表明したため、事業は一度頓挫しました。

潮目が変わったのは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT法)が施行された翌年の2013年です。島では「メガソーラー発電事業推進協議会」が発足し、再びメガソーラー計画が浮上しました。この動きの中心にいたのは、当時島で唯一の佐世保市議であった大岩博文氏です。彼は九州電力に発電事業の構想を持ちかけ、地元出身の松尾新吾会長に直談判を行うなど、積極的に誘致を進めました。事業が本格的に動き出すと、大岩氏のほか、メガソーラー事業に賛成する一部の地元住民も地権者との交渉に加わりました。その結果、島内外の1000人以上の地権者が同意に至りました。対象となったのは私有地だけでなく、牛の放牧地や牧草地として使われていた各地区の郷有地(地区住民の共同所有地)にも及びました。地元住民は、「早く貸せば、早く協力金と地代がもらえる。今貸さないともったいない」と説得されたと証言しています。

住民が抱く「恵み」と「災厄」の狭間

島南部の神浦地区で商店を営む50代の男性は、当時の心境を次のように語ります。「事業者の人が家に来て、『この土地を貸してくれれば坪単価200円、年間で20万円ほどの収入になります』と言ったんです。正直、そんな土地がうちにあるとは思っていませんでした。使い道もない山だったので、悪い話ではないと思いました。周りが次々と貸していく中で、うちだけ断れば、そこだけぽっかり穴があく。それは事業者にも、地区の人にも迷惑がかかると思い、貸すことにしました。」

しかし、男性は静かに言葉を続けます。「メガソーラーで島が発展するとは思っていません。どちらにせよ、この島がどんどん無人島に向かっていくのは間違いありません。それを少しでも遅らせることができるなら、その方が良いと思いました。」この言葉は、多くの宇久島住民が抱く複雑な心情を代弁しています。環境破壊や原風景の喪失への懸念がある一方で、過疎化と人口減少という切実な問題に直面する中で、経済的な恩恵を拒むことができない現実があります。彼らにとって、メガソーラーは、平穏な島の姿を踏みにじる「災厄」となり得る一方で、島の「無人島化」を少しでも遅らせるための「恵み」でもあるのです。

宇久島のメガソーラー事業は、再生可能エネルギー導入の推進と地域振興のジレンマを浮き彫りにしています。経済的な利益と引き換えに、地域の自然景観や生活様式が変化していく中で、住民の心には希望と不安が入り混じった複雑な感情が渦巻いています。


参考文献