2024年10月27日、ドナルド・トランプ前米国大統領が来日し、天皇陛下との会見に臨みました。2019年5月に国賓として初めて陛下と対面した際、トランプ前大統領が珍しくジャケットのボタンを留めていた姿が「陛下への敬意の表れ」として大きな注目を集めました。二度目となる今回の会見では、トランプ前大統領の振る舞いがどのようなものだったのか、国際儀礼（プロトコール）の専門家がその行動やしぐさを詳細に分析し、その意味するところを解説します。この分析は、単なる表面的な行動に留まらず、外交における非言語コミュニケーションの重要性を浮き彫りにします。
玄関での出迎え：友好を示すボディランゲージ
午後6時半過ぎ、トランプ前大統領は皇居・御所に車で到着し、玄関前で天皇陛下から出迎えを受けました。国際プロトコール・マナーアカデミーICPAの創立学院長であり、外交マナーを専門とする白羽セシリア美麗氏によると、トランプ前大統領は車を降りた直後から、陛下への敬意と友好を示す複数の「サイン」を見せていたといいます。大統領は陛下の姿を認めるとすぐに両手を広げる動作を見せました。これは米国で一般的なボディランゲージであり、自分の体を全て見せることで、隠し事のない友好の気持ちを表現するものです。ジャケットのフロントボタンが開いたままだった点はマナー上は気になりますが、何度か留めようとするしぐさも見受けられました。これは、おそらく陛下が玄関まで出迎えることを予想しておらず、慌てたためにボタンを留め損ねたのではないかと白羽氏は分析しています。
「トランプ・シェイク」からの変化：陛下への敬意を示す握手
白羽氏が特に注目したのは、握手のシーンです。トランプ前大統領は、自身の優位性を示すために握手で心理的な操作をする傾向があり、相手の手を力強く掴む「トランプ・シェイク」で知られていました。例えば、2017年の日米首脳会談では、安倍晋三元首相の手を19秒間もぐいっと引き寄せるような力強い握手を行い、安倍元首相が驚いたような苦笑いを浮かべる場面もありました。
しかし、今回の天皇陛下との握手は、「トランプ・シェイク」とは打って変わって非常にソフトなものでした。白羽氏によれば、トランプ前大統領が自身の掌よりも天皇陛下の掌が上になるような握り方をしたことからも、陛下に対する深い敬意が読み取れるとのことです。
2人の握手を映像で注意深く観察すると、トランプ前大統領は長すぎる握手が適切ではないと考えたのか、途中で一瞬手を開きかける様子が見られました。しかし、天皇陛下が笑顔でその手を握り続けられたことを受け、トランプ前大統領は陛下の手の上に自らの左手をそっと重ねました。このしぐさについて、白羽氏は「陛下のお体に触れることは皇室儀礼としては許されませんが……」と前置きしつつ、次のように解説しています。「両手での握手は大きな喜びを表すジェスチャーであり、陛下の歓迎の気持ちが非常に嬉しかったのでしょう。握手をしながら左手で陛下の腕に触れるような場面もありましたが、実際に触れていたのか、触れずに添えていたのかは判別が難しいですね。いずれにしても、陛下をエスコートするかのような姿勢によって、最大限の敬意を示そうとしたのでしょう。」
天皇陛下とソフトな握手を交わすトランプ前大統領。国際儀礼に則った敬意を示す場面
細部に宿る「敬意」：ネクタイと着席時の工夫
さらに、トランプ前大統領はこの日、自身の代名詞とも言える“パワータイ”の赤ネクタイではなく、親しみやすさを演出する黄色のネクタイを着用していました。黄色は日本の国花である菊の色にも通じるため、日本への配慮がうかがえます。御所内での会見が始まり、小広間で天皇陛下と向かい合って座った際も、猫背気味に体を傾けて陛下と目線を合わせようとしたり、足を肩幅程度にしか開かなかったりと、自身の大きな体格が威圧感を与えないよう細やかな工夫が見られました。これらの振る舞いは、相手への敬意と、その場に合わせた柔軟な対応を示しています。
唯一の「改善点」：指差しと発言の是非
しかし、白羽氏が「あれはやめていただきたかった」と指摘する一幕もありました。会見を終えたトランプ前大統領が天皇陛下とともに再び玄関前に姿を現した際、待ち受ける報道陣に対し、陛下のことを指さして「“Great man（立派な人）”」と二度繰り返したことです。口頭での称賛は問題ないものの、指差しは国際儀礼においては相手を軽んじる行為と受け取られかねないため、唯一の改善点として挙げられています。この瞬間は、前大統領が示した敬意の数々の中で、わずかながらも外交上の繊細さを欠いた場面として映りました。
結論
今回の天皇陛下との再会見におけるトランプ前大統領の振る舞いは、国際プロトコールの専門家によって多角的に分析されました。車を降りた際の友好を示すボディランゲージ、これまでの「トランプ・シェイク」とは異なるソフトな握手、そして日本の国花を思わせる黄色のネクタイの着用や着席時の配慮など、随所に深い敬意と相手への配慮がうかがえました。一方で、報道陣への指差し発言は、唯一の改善点として指摘されたものの、全体としては、前大統領が国際儀礼を意識し、天皇陛下への敬意を最大限に示そうとした姿勢が強く印象付けられる会見であったと言えるでしょう。このような細やかな外交的配慮が、国際関係における信頼構築に寄与する重要な要素となります。
参考資料
- Yahoo!ニュース (2024年10月27日). トランプ前大統領、天皇陛下との再会見で「国際儀礼」は完璧だった？専門家が採点. https://news.yahoo.co.jp/articles/a2283522a634a82276f2fa0f618a022c1282fd5e
- 国際プロトコール・マナーアカデミーICPA (専門家 白羽セシリア美麗氏).
- ロイター/アフロ (代表撮影).
