コネ入社の「問題児」部下、上司を悩ませる心理学的背景と対処法

コネ入社した「問題児」が部下になった際、どのように対応すれば良いのか。このような状況は、多くの職場で上司に深刻なストレスをもたらします。特に、有力者のコネで入社した社員は、その背景から周囲が強く意見しにくい環境を作り出しがちです。心理学者の舟木彩乃氏は、犯罪に発展しかねない問題行動を起こす人々は、何らかの障害を抱えている可能性があると指摘しています。本稿では、社会常識が通用しない「コネ入社社員」の心理的背景と、彼らが部下になった際の上司の苦悩に焦点を当てます。

職場を憂鬱にする存在:コネ入社社員の課題

社内で誰もが口出しできない「コネ入社社員」は、しばしば仕事をほとんどせず、過去の素行の悪さをそのまま持ち込み、上司さえも見下すような態度を取ることがあります。しかし、彼らの親の威光を傘に着ているため、上司が我慢を強いられる場面も少なくありません。このような、明らかに社会常識が通用しない人々の背後には、どのような心理的な背景があるのでしょうか。そして、もしこのような社員を部下に持ってしまった場合、上司はどのように対応すべきなのでしょうか。

困惑する上司:木村さんの事例

地方都市で代々続く中小企業の総務部で働く木村さん(仮名、30代女性)は、地元大学卒業後すぐに現在の会社に入社したベテラン社員です。社長秘書や経理など幅広い業務を任され、昨年からは総務部の副部長に昇進しました。社長の人柄が良く、社員も穏やかな人が多い、働きやすい職場でした。しかし、約2カ月前、木村さんの部下としてPさん(20代男性)が入社して以来、職場の環境は一変しました。木村さんは、頭を抱えることが多くなり、職場へ行くことすら憂鬱になるほどだったといいます。

職場での人間関係の悩みを抱える人物職場での人間関係の悩みを抱える人物

社長の苦渋の決断とPさんの入社

Pさんの父親は、社長の古くからの知人で、重要な取引先の会長であり、地方議員も務める地元の有力者です。Pさんの父親から「息子は昔からやんちゃで(非行少年だった)、高校は卒業したものの、進学も就職もせず遊んでばかりいる。なんとか社長の会社でお願いできないか」と頭を下げて頼まれました。人が良い社長は、その依頼を断ることができず、「分かりました。優秀なスタッフ(木村さん)の下で働いてもらいます」と伝え、Pさんを受け入れることになったのです。

社長はまず、Pさんを総務部に配属し、会社全体の仕事の流れを覚えてもらおうと考えました。総務部で電話対応やデータ入力などの一般事務全般を取りまとめ、社長の秘書的業務もこなす木村さんが、Pさんの直属の上司兼教育担当に任命されました。Pさんの初出勤日には、社長自らが付き添い、主要部署を回って、Pさんが取引先会長の息子であること、初めての職場であること、まだ若いので丁寧に指導してほしいことなどをスタッフに伝えました。特に木村さんには、深々と頭を下げて教育を依頼したといいます。

直属の上司が直面する現実

このようにして入社したコネ入社の「問題児」が、直属の部下となった場合、上司は計り知れないプレッシャーと困難に直面します。仕事への意欲の欠如、社会常識の欠如、そして親の権力を背景にした態度など、様々な問題が職場に波紋を広げます。上司は、会社の利益と職場の秩序を維持しつつ、デリケートな人間関係を考慮しながら、一歩間違えれば大きな問題に発展しかねない状況を乗り越えなければなりません。

専門家が語る問題行動の背景

心理学者の舟木彩乃氏が著書『あなたの職場を憂鬱にする人たち』で述べるように、こうした問題行動の背景には、単なる「わがまま」では片付けられない心理的な要因が潜んでいる可能性があります。適切な理解と、場合によっては専門的なアプローチが求められることもあります。上司は、目の前の問題行動だけでなく、その根底にある原因にも目を向け、慎重かつ戦略的に対処する必要があります。本記事で提示された事例は、現代の日本企業が直面しうる複雑な人事問題の一端を示しています。

参考文献

  • 舟木彩乃『あなたの職場を憂鬱にする人たち』集英社インターナショナル