日本各地には、一見すると目を疑うような「仰天道路」が数多く存在します。異形のトンネルや信じられないほど狭い道、常軌を逸した急カーブなど、その見た目のインパクトや走行時のスリルはまさに桁違いです。本記事では、特にその中でも、ゲームの世界のような風景が広がる北海道乙部町、国道229号沿いにひっそりと佇む「豊浜2号隧道」の驚くべき姿と、その知られざる歴史に迫ります。
平原に忽然と現れる「豊浜2号隧道」の異形
「なぜここにトンネルがあるのか」。そう思わずにはいられない、他に類を見ないシチュエーションが豊浜2号隧道の最大の特徴です。前後に続く道の存在感がほとんどなく、トンネルを覆う土盛りも大きく削り取られているため、まるでトンネルの躯体だけがポツンと残されているかのような印象を与えます。周囲の何もない広々とした風景が、このトンネルの孤立感を一層際立たせ、訪れる者の好奇心を掻き立てます。
トンネルを含む小山がポツンと佇む。ゲームの中の風景のようだ
山津波が変えた運命:旧豊浜トンネルの歴史
この「豊浜2号隧道」は、かつて渡島・檜山地域を結ぶ主要ルートであった旧豊浜トンネルの一部でした。その運命が大きく変わったのは、1962年(昭和37年)に発生した大規模な山津波事故がきっかけです。この事故により、ルートの安全性が見直され、現在の新しい豊浜トンネルが掘削されました。結果として、この2号隧道を含む四つの隧道は役割を終え、放棄された旧道の一部として、現在もその姿を残しています。国道から海側へ約300mほど入った場所に位置し、時が止まったかのような静けさの中で、過去の出来事を今に伝えています。なお、国道横に放棄された豊浜1号隧道も同様に、横が開削され、トンネルらしさが薄れています。
国道229号の別の顔:積丹半島の記憶
同じ国道229号には、別の地域にも「豊浜トンネル」が存在します。積丹半島のそれは、1996年(平成8年)に発生した岩盤崩落事故によって、その名が広く知られることとなりました。偶然にも同じ名称を持つ二つのトンネルが、それぞれ異なる形で日本の道路史に名を刻んでいることは、興味深い事実と言えるでしょう。
「豊浜2号隧道」は、単なる古い構造物ではありません。そこには、人々の生活と自然の猛威が交錯した歴史が刻まれており、日本の道路が辿ってきた進化の過程を物語っています。訪れる者を非日常の世界へと誘う「仰天道路」の魅力は尽きることがありません。





