今季のプロ野球は、観客動員数において記録的なシーズンとなりました。NPB全体の観客総数は2704万0286人に達し、1試合平均3万1515人を記録。これは前年の2668万1715人、1試合平均3万1098人から1.3%の増加であり、2005年に「実数発表」が始まって以来の最多記録を更新しました。
プロ野球観客動員、過去最高の記録を更新
日本のプロ野球界は近年、球場体験の向上やファンサービスの強化により、着実に観客数を伸ばしています。特に2025年シーズンは、新型コロナウイルス感染症の影響を乗り越え、多くのファンが球場に足を運び、過去最高の観客動員数を記録するに至りました。これは、各球団が地域に根差した活動や革新的なプロモーションを展開してきた成果と言えるでしょう。
日本ハムと西武ライオンズ、際立つ集客力の伸び
球団別の観客動員数を見ると、顕著な伸びを見せたのが北海道日本ハムファイターズと埼玉西武ライオンズです。日本ハムは、新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」の人気を背景に、1試合平均2万8830人から3万1442人へと9.1%の増加を達成。野球観戦以外の目的で訪れる客層も取り込み、その集客力は高まる一方です。
しかし、それを上回る増加率を示したのが西武ライオンズでした。昨季の平均2万1601人に対し、今季は2万4395人と、実に12.9%増を記録。12球団で最大の伸び率を達成し、多くの注目を集めています。
ベルーナドームの難題と逆転の経営戦略
西武ライオンズの本拠地であるベルーナドームは、その立地と構造から特有の課題を抱えています。元々屋外球場に後から屋根を設置したため壁面がなく、館内の空調が十分に機能しません。狭山丘陵という地理的な条件も相まって、熱気や湿気がこもりやすく、これが長らく観客動員が伸び悩む要因とされてきました。
ベルーナドームの外観。観客動員数増加の背景には独自の戦略がある
そうした逆境の中、なぜ西武ライオンズは12球団最大の成長を遂げたのでしょうか。株式会社西武ライオンズの赤坂修平広報部長によると、その背景には大胆な経営戦略の転換がありました。2023年に広報部長として着任した赤坂氏は、プリンスホテル(現・西武・プリンスホテルズワールドワイド)で企画や広報を経験。前年に球団社長に就任した奥村剛氏もプリンスホテルの執行役員を務めるなど、ホテル業界の知見を持つ人材が球団経営に参画したことが大きな転機となりました。
2021年にベルーナドームのボールパーク化は完了していましたが、コロナ禍によりその価値が十分に周知されていなかったと赤坂氏は語ります。
ホテル業界の知見を応用した「RevPAR」戦略
プロ野球事業の売上・利益を「客数」「単価」「来場回数」というシンプルな要素に分解し、ホテル業界の経営指標である「RevPAR(Revenue Per Available Room=販売可能な客室1室あたりの収益)」の概念を応用したのが、彼らの戦略の核です。大規模投資後で座席数をこれ以上増やせない状況下において、まずは稼働率を上げ、次に来場客単価を向上させることに注力しました。
プロモーション機能の強化と組織再編
この戦略を実行するため、球団組織にもメスが入りました。従来の野球興行を担当する事業部、飲食や広告看板などを扱う営業部、メディア対応を行う広報部という構成から、事業部にあったプロモーション機能を広報部に移管。マーケティングも事業部と広報部が連携して推進する体制へと変更しました。これにより、広報部は単なるメディア対応に留まらず、プロモーション活動を通じて売上・利益の向上に直接的に貢献する役割を担うことになったのです。
西武ライオンズの観客動員数急増は、単なる球団の人気だけでなく、ホテル業界で培われた戦略的思考と組織的な改革がもたらした成果と言えるでしょう。ベルーナドームという物理的制約を乗り越え、ファン体験と収益性の両面を追求する新たな経営モデルは、今後のプロ野球界における成功事例として注目されます。





