人生に「コンセプト」を:海外で直面した“透明人間”の苦難を「ユニークな辛さ」に変える生き方

現代社会を生きる上で、時に困難や孤立に直面し、立ちすくんでしまうことがあります。しかし、もし自分自身の人生に明確な「コンセプト」を持つことができれば、その生き方は驚くほど楽になるかもしれません。本稿では、コピーライター澤田智洋氏が自身の経験を基に語る、海外での学生生活で直面した“透明人間”のような孤立状態から、いかにして「ユニークな辛さ」というコンセプトを見出し、人生を好転させたかを紹介します。幼少期を海外で過ごし、多様な価値観に触れてきた著者による、「道なき時代」を歩むためのヒントを探ります。

海外での孤立体験:イギリス人学校での“透明人間”

著者が中学1年生の時、フランスで経験した「透明人間」のような日々は、自ら志願して転校したパリのイギリス人学校で始まりました。英語がまったく話せない状態での入学は、想像以上に厳しい現実を突きつけました。転校当初こそ、同級生たちは珍しそうに集まってきて、英和辞典をめくりながら日本語を尋ねるなど、一時的な好奇の目を向けました。しかし、その関心はわずか3日で薄れ、あっという間に周囲から人がいなくなったのです。まるで「流行」が去るかのように、著者から誰も話しかけなくなり、視線すら合わせてもらえなくなりました。

教室の席は2人掛けが基本でしたが、クラスは奇数人数。そのため、著者は毎日たった一人で席に座ることを余儀なくされました。隣に誰もいないという状況は、まさに絶望そのもの。毎日の朝食も喉を通らなくなり、「人生が終わった」とさえ感じたといいます。孤立し、打つ手がない「万事休す」の状態でした。

絶望からの転換点:「ユニークな辛さ」という発見

そのような絶望の淵で、教室に一人座っていた著者は、「こんな惨めな思いをしているのは、世界で自分だけではないか」と涙がこみ上げてくるのを感じました。しかし、その次の瞬間、心の中に突如として「ユニークな辛さ」という言葉が降ってきたのです。この時経験していることは、誰もが味わえるようなものではない。ならば、この「ユニークな辛さ」を心から味わい尽くそう、と。

この自分だけの特別な経験は、きっといつか人生の宝物になるはずだ。「みんなと違うからこそ価値があるはずだ」。そう思えた瞬間、不思議と気持ちが楽になりました。自身の人生にコンセプトがあれば楽になる、そのことを初めて痛感したのがこの出来事でした。

海外での生活で孤独を感じ、自分と向き合う人物のイメージ海外での生活で孤独を感じ、自分と向き合う人物のイメージ

多様な価値観との出会いが育んだ「世界を解釈し直す視点」

著者が「ユニークな辛さ」という言葉を生み出せた背景には、帰国子女として多様な価値観に触れてきた経験があります。例えば、フランスでは公共の場で後ろの人のためにドアを支えることが常識である一方、日本ではそうする人がほとんどいないことに衝撃を受けました。また、アメリカでは電車の遅延が日常茶飯事であるのに対し、日本では基本的に時刻表通りに運行されます。

世界には、たった一つの絶対的な常識があるわけではない。この気づきが、もし目の前の社会が自分にとって居心地の悪いものであったとしても、自分に適した形で解釈し直して良いのだ、という考え方を自然と育んだのです。

「辛さ」の再定義:光の当て方を変えれば影は光に

通常、「辛さ」はマイナス面しか持たないものと捉えられがちです。しかし、国や価値観が異なれば、「辛さ」の解釈もまた多様であると著者は指摘します。例えば、聖書には「悲しむ人々は、幸いである/その人たちは慰められる」という、衝撃的な一文があります。悲しむからこそ慰められ、ケアされる時間や、誰かとの新たな繋がりが生まれるきっかけにもなり得るのです。

もしそうであるならば、自身が「透明人間化」している現状であっても、光の当て方を変えれば影ではなく光に見えるかもしれない。そんな相対的な視点からパッと生まれたのが、「ユニークな辛さ」という言葉でした。この言葉が心に浮かんだことで、著者は安堵し、自分と社会のズレを埋めることができました。そして、「せっかくなら、もっとユニークな辛さを経験してみよう」という前向きな姿勢へと、その生き方を変えていったのです。

結論:コンセプトがもたらす人生の豊かさ

自身の経験を通して、澤田智洋氏は人生に「コンセプト」を持つことの重要性を強く訴えかけています。海外での孤立という極限状態の中で見出した「ユニークな辛さ」は、著者の視点を変え、困難を価値ある経験へと転換させました。多様な文化に触れる中で育まれた柔軟な思考が、既存の常識に縛られず、自分にとって最適な形で世界を解釈する力を与えてくれたのです。読者もまた、自身の人生において、目の前の困難をどのように捉え、どんな「コンセプト」で乗り越えていくかを考えるきっかけとなるでしょう。この物語は、一人ひとりが持つ「ユニークさ」を肯定し、それぞれの「辛さ」を人生の糧とするための力強いメッセージを投げかけています。

参考文献

  • 澤田智洋 著, 『人生にコンセプトを』, 筑摩書房