高市早苗首相と財務省の間で、物価高対策を巡る予算規模をめぐる攻防が水面下で激化している。財務省が予算規模を縮小しようとすることに対し、高市首相がやり直しを命じるなど、その対立は公然のものとなりつつある。この「増税マフィア」とも称される財務省が改めてその存在感を増す中で、これまで公表・報道されてこなかった数々の不祥事が内部で発生していたことが明らかになった。
週刊ポストは情報公開請求を通じて、過去1年間(2024年4月~2025年6月)に国家公務員法の処分を受けた財務官僚11人のリストを入手した。このリストは、国家の財政を担う最高機関にふさわしくない、金銭絡みの問題から文書改竄、盗撮、わいせつ行為に至るまで、驚くべき内容が並んでいる。入手した「処分説明書」からは、知られざる財務省の闇が浮き彫りになる。
明らかになった財務省官僚「11人の不祥事リスト」
本誌が入手した財務官僚の懲戒処分リストは、その多様性と重大性に衝撃を与える。国家の財政を預かる公僕が、金銭の不正、公文書の改竄といった職務倫理に反する行為だけでなく、盗撮やわいせつ行為といった犯罪行為にも手を染めていた事実が明らかになった。これらの行為は、国民の信頼を著しく損なうものであり、財務省という組織全体のガバナンスと倫理観が問われる事態だ。
リストには、具体的な所属部署、処分発令日、そして処分の理由が詳細に記されている。これらは通常、国民の目に触れることのない情報であり、情報公開請求によってようやくその一端が露わになった形だ。
衝撃のケース:交番襲撃から無免許運転まで
処分説明書に記載された事例の中でも、特に目を引くのは神戸税関職員のケースである。この調査官は、2024年5月23日に奈良県天理市の交番のアルミサッシ製ドアを蹴り壊した疑いで逮捕された。防犯カメラにはその様子が鮮明に映っていたと報じられている。本人は、以前自身が摘発された交通違反と同じ違反を見かけ、警察官不在の交番に苛立ちを覚えてドアを足蹴りしたと供述。
さらに、この調査官は同年10月にも免許停止処分中にバイクを運転したとして無免許運転容疑で逮捕されている。神戸税関は事実関係を調査し、厳正に対処すると発表していた。処分説明書によれば、この職員には「銃刀法違反」容疑での送検歴や「無届けアルバイト」も発覚している。これら複数の深刻な問題行為にもかかわらず、彼に下された処分は「3か月間、減給1割」という比較的軽いものだった。
神戸税関の建物外観、国民の信頼が揺らぐ事件が発覚
なぜ公表されないのか? 財務省と人事院の基準
財務省の職員11人のうち、事件が報道されたのはこの神戸税関職員と、前述の密輸事件における容疑者情報漏洩の2件のみである。残りの9件については、なぜ公表されなかったのかという疑問が残る。財務省広報室は、懲戒処分の公表については「人事院の『懲戒処分の公表指針について』に従っている」と回答している。
人事院の公表指針を調べると、「公表対象」は「【1】職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分」と「【2】職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち、免職又は停職である懲戒処分」と規定されている。つまり、今回報道されなかった9人の不祥事は、行為が「職務上」のものではなく、かつ停職や免職処分には至らなかったため、公表の対象にならなかったということのようだ。これにより、国民の多くは、国の重要機関で起きている不祥事の実態を知ることができない状況にある。
「増税マフィア」批判の裏側:メディアの沈黙が招く問題
政治評論家の有馬晴海氏は、この問題について厳しく指摘する。氏は、「窃盗やわいせつ行為などの案件でも公表対象になる停職ではなく減給や戒告で済ませる財務省の基準も甘いが、それらを報じようとしない新聞・テレビなどの大メディアの姿勢も問題だ」と述べている。
財務省や警察が記者クラブに情報を下ろさなくても、情報公開請求を行えば今回の事態は明らかになるにもかかわらず、大メディアがそれを怠っているのはなぜか。有馬氏は、彼らが財務省側から記者クラブを通じて情報をもらう「持ちつ持たれつ」の関係にあるため、「あえて調べて検証する」というモチベーションが湧きにくいという問題を指摘している。国民の知る権利が軽んじられ、権力監視というジャーナリズムの重要な役割が果たされていない現状は、民主主義社会にとって深刻な懸念材料と言える。
財務省内部で発生する不祥事が適切に公表されず、また大手メディアによる追及も不十分である現状は、国民が政府機関に対して抱く信頼を揺るがすものだ。真の透明性を確保し、健全な民主主義を維持するためには、財務省自身の処分基準の見直しと、メディアによる積極的な情報収集と報道が不可欠である。





