最近の朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)は、江藤リヨ(北香那)というキャラクターが登場してからグンと勢いづき、またさらに面白くなった。ヒロイン・トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)がやがて夫婦となることを私たちは知っているわけだが、そこへ彼女の存在が割って入ってきたのだ。ヘブンの妻になることなど考えもしないトキからすれば、“潜在的なライバル”だといえるだろう。「朝ドラ」はヒロインの人生を描くものだ。よきドラマには、よきライバルの存在あり。近年のライバルたちの存在を振り返ってみたい。
■市川実日子
まず真っ先に思い浮かぶのが、『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)に登場した“ベリー”こと野田一子(市川実日子)だ。同作は、母娘3代にわたる100年の物語を描いたもの。彼女はるい(深津絵里)がヒロインのパートで姿を現し、物語を大いに盛り上げた。
この『カムカムエヴリバディ』は100年という長い時間を描いた作品とあって、初代ヒロイン・安子(上白石萌音)のパートはかなり重々しいものだった。そう、戦争があったからである。安子は愛する人を失い、この世界に翻弄されていた。そしてそのまま、彼女の娘・るいへとバトンが渡っていくことに。るいは母に“捨てられた”と思っている。どこか控えめな彼女の性格は、そんな母との過去に由来するものだった。けれどもやがて夫となるトランペッターの“ジョー”こと大月錠一郎(オダギリジョー)との出会いにより、世界が一変。ここでるいの前に立ちはだかったのが、ベリーの存在だったのだ。
ベリーはジョーの追っかけである。長いこと、ひたすら彼を想ってきた。彼女からすれば、るいこそが割って入ってきた存在。よほど不愉快だったのだろう。勝ち気な性格のベリーはるいに対して敵意すら抱いていた。しかしこれを表現する市川の演技が快活な悪役然としたものだったことで、この展開が『カムカムエヴリバディ』の世界に強いエンターテインメント性をもたらした。安子のパートの重苦しさとは対照的で、じつに豊かな「朝ドラ」だと感じたものである。その立役者が、“ベリー=市川実日子”だったのだ。






