高市首相「東京を見習って」発言に鳥取知事「ギョっとした」人口戦略巡る認識のずれ

日本が直面する喫緊の課題である人口減少問題に対し、政府は11月に「人口戦略本部」を設置しました。しかし、この重要な国家戦略を巡り、地方自治体の首長と高市早苗首相との間で認識のずれが浮上し、波紋を呼んでいます。特に鳥取県の平井伸治知事が明かした高市首相とのやり取りは、今後の少子化対策議論の方向性に一石を投じるものとして注目されています。

知事会の提言と平井知事の主張

12月2日、全国知事会は、政府の人口戦略本部に対し、地方や有識者を交えた戦略会議の場を設けるよう、城内実経済財政担当相に申し入れを行いました。昨年から知事会の人口戦略対策本部の部長を務める鳥取県の平井伸治知事は、11月19日に官邸で行われた全国知事会懇談会で、高市首相が人口戦略本部を立ち上げたことを評価しつつ、「何が本当に実効性のある政策なのか、それを見極めることを政府にやってもらいたい」と提言していました。

平井知事は12月3日の県議会で、この提言の背景には、地方団体内での「大都市的な所と地方部で水掛け論になってしまう」現状があると説明。「今、東京都は何を言っているかというと、”東京は少子化対策の成功例だ”と言っているんです。これ、皆さんギョっとすると思うのですが、でも本当にそう言って宣伝して歩いていますし、国会議員にも振りつけ、さらに高市総理のとこにも行って、”東京は大成功した”と」と述べ、東京都の主張が地方の実情と乖離していることを示唆しました。

東京都の「成功例」と高市首相の発言

平井知事の発言通り、小池百合子都知事は11月19日に官邸で高市首相と会談し、都の子育て政策の実績をアピールしています。小池知事は「グッドニュース」として、都の出生数が1月から6月期で前年比0.3ポイント上昇し、10年ぶりに増加したことを紹介しました。高市首相も都の出産・子育て支援体制を評価したと報じられています。東京都では、0歳から18歳の子どもを対象に月額5000円を支給する制度や、無痛分娩の助成制度などが導入されています。

しかし、この会談の直後、高市首相が平井知事に対して放った言葉が議論を呼んでいます。平井知事は、「私も高市総理から言われたんですけれども。『東京を見習って地方もやるようにしなきゃね』とか言われて。何だろうかなと思ったのですが……」と当時の驚きを明かしました。高市首相は、東京の出生数が増加したのは無償化などの施策によるものであり、「地方は財源がないから、どこでもできるような仕組みを考えなければいけないですよね」と述べたといいます。

高市早苗首相と鳥取県知事の平井伸治氏が人口戦略について議論する様子高市早苗首相と鳥取県知事の平井伸治氏が人口戦略について議論する様子

平井知事の反論:出生数と出生率の「誤解」

高市首相の発言に対し、平井知事は「のけぞった」と心情を吐露し、その認識が「不正確」であると指摘しました。平井知事によれば、東京都で増えたのは「出生数」であり、数十人程度の増加に過ぎません。これは、東京一極集中により多くの女性が東京へ転入した結果であり、出生数が増えても「出生率」は依然として1倍を下回っているのが現状です。対して鳥取県の出生率は1.43倍であり、東京都とは「全然違うわけですよね。そこは誤解があったのではないかと思います」と平井知事は説明しました。

この認識のずれは、今後の少子化対策の議論において、データの解釈の重要性を示唆しています。平井知事は、「そのようなことがあるので、ファクトを押さえながら、冷静な議論ができる環境を作ってくれと政府にお願いしているとことです」と締めくくり、正確な情報に基づいた政策立案の必要性を強調しました。人口減少問題という国家的な課題に対し、一極集中による見かけの数字に惑わされることなく、地方の実情を深く理解した上で、実効性のある対策が求められています。