出国税3倍案に高市政権が直面する課題:日本人からの徴収は妥当か?

今年10月までに日本を訪れた外国人観光客数は約3555万人に達し、過去最高を更新しました。インバウンド消費の拡大は日本経済に恩恵をもたらす一方で、高市政権は財源確保の一環として、「出国税」の増額を目指しています。現在の1000円から3倍の3000円への引き上げが実現すれば、年間約1000億円の増収が見込まれるとされています。しかし、この出国税(正式名称:国際観光旅客税)は、外国人観光客だけでなく日本人からも一律に徴収される制度となっており、その妥当性について議論が巻き起こっています。

現在の「出国税」制度と背景

「国際観光旅客税」として2019年に導入されたこの税金は、飛行機や船で日本を出国する全ての旅客から徴収されます。徴収業務は航空会社や船会社が担当し、航空券や乗船券の料金に上乗せされる形が取られています。国税庁の通達では「出国する旅客」と明記されているものの、国籍に関する具体的な記述はなく、チケットに顧客の国籍情報が記載されていないことからも、国籍を問わず一律に課税される仕組みです。

出入国在留管理庁のデータによると、2024年の日本人出国者数は約1300万人、コロナ禍前の2019年には2000万人に達していました。これは、多くの日本人もまた、この出国税を支払ってきたことを意味します。本来、この税はインバウンド需要の高まりに合わせ、「観光基盤の拡充・強化」を目的として導入された経緯があります。そうした背景を考えると、日本人からも徴収される出国税が3倍に引き上げられることに対し、納得しがたいという声が上がるのも当然と言えるでしょう。

高市早苗首相、重要な政策発表の場にて高市早苗首相、重要な政策発表の場にて

国際的な比較と専門家の見解

航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は、出国税を3倍に引き上げるという政府の方針自体は、国際的に見て特段の問題はないと指摘しています。ヨーロッパやアジア諸国でも、日本と同程度かそれ以上の出国税を課している国は少なくありません。しかし、鳥海氏はその上で、値上げするのであれば、もう少し「工夫」が必要であると提言しています。

徴収される税の使途と提案される改善策

出国税は一般会計に組み入れられますが、その導入の建前が「観光基盤の拡充・強化」であったことを考えると、オーバーツーリズム対策といった特定の目的に限定されるべきだという意見もあります。もし日本人の出国税も引き上げるのであれば、その使途をより明確にする必要があります。例えば、パスポートの取得費用を大幅に引き下げる、あるいは10代の若者については出国税を免除するといった、具体的な施策が考えられます。

さらに、EU諸国では域内と域外で出国税の金額が異なるケースがあります。鳥海氏は、同様に、韓国や台湾といった近隣アジア諸国への渡航には現在の1000円から1500円程度に抑え、より遠距離への渡航には3000円を課すといった、目的地に応じた差別化を図ることも可能だと提案しています。

税金は「取りやすいところから取る」という側面があるものの、納税者がその使途や制度の変更に意識を向けなければ、いつの間にか負担が増加してしまう可能性があります。高市政権が目指す出国税の増額は、日本の観光政策と財政運営のあり方、そして国民の負担に対する透明性の確保という重要な課題を浮き彫りにしています。

結論

高市政権による出国税3倍増額の提案は、財源確保と観光振興という二つの目的を抱えています。しかし、日本人からも一律に徴収される現行制度のままでは、その妥当性や公平性について国民からの理解を得ることは困難です。国際的な事例を参考にしつつ、徴収された税の使途を明確化し、日本人納税者への配慮を盛り込んだ柔軟な制度設計が求められます。政府は、単なる増収に留まらず、国民が納得できる透明性の高い税制を実現するための議論を深めるべきです。

参考文献

  • 「どこの国の客だろうが一律」高市政権が「出国税3倍」を狙うが、我々日本人も対象で……その使い道とは(Source link
  • 「週刊新潮」2025年12月4日号 掲載, 新潮社