NHK連続テレビ小説「ばけばけ」は、小泉八雲(ヘブン、演:トミー・バストウ)の松江時代を描き、実在の英語教師である錦織友一(演:吉沢亮)が物語の重要な鍵を握る人物として描かれています。ドラマでは八雲に振り回されるコミカルなキャラクターとして登場する錦織ですが、史実における八雲と錦織のモデル・西田千太郎の関係は、私たちが想像するよりもはるかに濃密で深いものでした。現代の言葉で表現するならば、「ブロマンス」と呼ぶにふさわしい、異常なまでに密接な関係が二人の間には存在したのです。
ドラマを超えた「異常なまでの密接さ」
「ばけばけ」で描かれる錦織は、地域のエリートでありながらヘブンに翻弄される愛すべきキャラクターです。しかし、実際の小泉八雲と西田千太郎の関係は、ドラマのような穏やかな表現では到底語り尽くせません。ルポライターの昼間たかし氏が文献から紐解くように、彼らの関係はまさに「異常なまでに密接」でした。
新一万円札の顔、渋沢栄一記念イベントに登壇した俳優・吉沢亮氏。ドラマ「ばけばけ」では錦織役を務める。
八雲が西田と過ごした時間は膨大で、妻のセツと共に過ごす時間よりも長かったのではないかとさえ思えるほどです。松江へ赴任した当初、八雲は通訳として真鍋晃を頼っていましたが、真鍋の度重なるトラブルにより関係を断絶。この状況下で、八雲が頼れる唯一の人物が西田でした。松江には他にも日常会話レベルで英語を話せる人物は複数いたにもかかわらず、八雲が西田に固執したのは、西田の信仰にも近いような献身があったからに他なりません。
学校での出会い、そして110通を超える手紙の証拠
八雲と西田が出会ったのは1890年8月30日、西田の日記には「直チニ旅館冨田ニ訪フ」と記されています。この出会いから西田が亡くなる1897年までのわずか7年間という短い期間ながら、彼らの関係の密度は尋常ではありませんでした。
西田の日記を紐解くと、八雲が松江を去る1891年11月15日まで、「ヘルン氏」の名前が週に何度も、ほぼ毎日登場します。二人は同じ中学校に勤務していたため、職場での顔合わせは当然ですが、それだけでは語り尽くせない深い絆がありました。現存する八雲から西田宛の手紙は、なんと110通を超えています。毎日顔を合わせる職場の同僚に向けて、これほどの数の手紙を頻繁に送っていたという事実は、二人の関係がいかに密接であったかを如実に物語っています。おそらく、失われた手紙や西田から八雲への返信も同程度あったと考えられ、職場を離れてもなお文通を続けるという行為は、単なる同僚や通訳の関係を超えた、特別な結びつきがあったことを示唆しています。
小泉八雲と西田千太郎の間にあったのは、時代や文化の枠を超えた、稀に見る深い人間関係でした。ドラマ「ばけばけ」が描く錦織のキャラクターも魅力的ですが、史実の二人の関係には、さらに心を揺さぶるような真実が隠されています。





