東京証券取引所の市場構造改革を巡る議論がようやくまとまった。議論の出発点には、東証1部の企業数の肥大化に対する危機感があった。だが、実質的に現在の1部市場に代わる「プライム市場」に入る企業の数は当初の想定よりも多くなる可能性が高い。魅力的な市場にするための改革は中途半端に終わる懸念もある。
プライム市場の新規上場基準は流通株式の時価総額で100億円以上となった。大和総研の神尾篤史主任研究員によると、1部に上場する約2150社のうち、約1700社がこの基準をクリアする。
神尾氏は「想定していたよりも緩やかな内容に落ち着いた。降格を懸念する地方企業の声を反映した結果ではないか」と話す。
ただ、これでは企業に対し、持続的な成長に向けた努力を促す市場の役割を十分発揮できなくなる恐れがある。そこで神尾氏が期待するのが東証株価指数(TOPIX)の見直しだ。
TOPIXは1部上場の全銘柄が組み入れられている。TOPIX連動型の投資信託が増え、さらに運用資産の大きい年金基金や大規模金融緩和を継続中の日本銀行が投資対象としているため、1部上場企業は軒並み株価を安定的に維持できてしまう環境にある。
このため、新指数は市場区分と組み入れ対象を切り離して作られることになった。新指数について、神尾氏は「企業価値向上を動機付けるため、流通時価総額以外に売買高なども基準にすることで、より流動性の高い企業だけが入れるようにするべきではないか」と提言する。
プライム上場企業には、より高い水準のガバナンスを求めることも決まった。神尾氏は「指名・報酬委員会の設置や独立社外取締役の起用はすぐにできることではない。新たなガバナンスの基準について、早い段階で企業にアラートする必要がある」と指摘する。
来年には、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改定に向けた議論も始まる。新たな市場区分や指数への移行は令和4(2022)年上半期。タイトなスケジュールの中で、企業側が準備を整えられる配慮も必要だ。
(米沢文)