岩を削ってできた洞窟のような教会。たどり着くにはゴミが山と積まれた未舗装の道を通らなくてはならなかった。狭い路地を車が進むたびに、さまざまなゴミのにおいが鼻を突いた。
エジプトの首都カイロで「ゴミの町」と呼ばれるマンシェット・ナセル。その先にあるキリスト教の一派、コプト教の教会で1月下旬、日本人ピアニストの末永匡(ただし)さんがコンサートを行った。聴衆はゴミを収集、分別してリサイクルで生計を立てる住民たち。町の外の世界を知らない子供も多いという。
国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員、幸田圭司さんらの案内で昨夏、この町を訪れた末永さんが「ここでピアノの音が流れたら素敵(すてき)だろうな」と考えたのが始まりで、在留邦人が力を合わせて実現にこぎつけた。ここに住む子供たちも合唱で花を添えた。幸田さんたちは日常業務の合間に訪れ、子供たちと交流してきたという。
末永さんは「音楽のあり方や、幸せとは何かを考えさせられた」と振り返った。座っていられず走り回って遊んだりする子もいたが、「音楽は届いていたのではないか」と話した。
私も同感だ。ほんの一瞬だったかもしれないが、ピアノの音色に触れ、笑顔で過ごした経験が子供たちの将来を少しでも明るく照らすよう願う。(佐藤貴生)