国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議により、北朝鮮労働者の海外での出稼ぎは昨年末、全面的に禁じられた。核・弾道ミサイル開発のための外貨獲得源となっているからだが、個々の出稼ぎ労働者にすれば金正恩政権に「搾取」されているのであり、この点にも目を向ける必要がある。北朝鮮の過酷な人権状況は、核・ミサイルと表裏一体で追及すべき問題だ。
北朝鮮の出稼ぎ労働については2015年の国連の報告書があるが、それによると、少なくとも5万人が海外で就労し、旅券は現地で没収され、職務期間中の帰国はできず、長時間労働を強いられる。「劣悪な条件で海外に送られている」との懸念が示されている。
安保理の制裁は、北朝鮮に核・弾道ミサイルを放棄させるのが目的だ。制裁対象は、主に核・ミサイル関連物資や兵器だったが、制裁決議が重ねられ、今では北朝鮮産の石炭や鉄、海産物、繊維製品は禁輸となり石油精製品の北朝鮮への輸出も厳しく制限された。
普通の国なら、国民生活への大打撃である。だが、金正恩政権はそもそも国民の生活を犠牲にして、核・ミサイル開発に邁進(まいしん)している。経済活動は体制維持のためにあるのだ。
安保理の制裁を堅持するため、日本や米国などは北朝鮮の過酷な人権状況を繰り返し指弾し、この点を喚起し続けねばならない。中国やロシアは再三、国民生活への打撃を理由に制裁緩和を主張する。出稼ぎ労働者は送還期限(昨年12月22日)がきても、両国には大勢が残った。制裁緩和をいうなら、人権弾圧をやめさせるのが大前提だ。
昨年、北朝鮮の人権問題追及で重大な後退があった。北朝鮮の人権状況をめぐる安保理会合がトランプ米政権の意向でキャンセルされたこと(12月)、日本政府が国連人権理事会、国連総会それぞれの北朝鮮人権非難決議案の「共同提出国」から外れたことだ(3月、12月に採択)。非核化をめぐる米朝交渉に伴う融和ムードが背景にある。