殺人や誘拐、強盗などの凶悪事件の捜査を担う警視庁捜査1課長に井ノ口徹(いのくち・とおる)氏(56)が17日付で就任する。「安全・安心を脅かす凶悪事件の全件検挙と、1件でも多くの未解決事件の解決に、捜査1課がワンチームとなり闘志を以て当たる決意だ」と述べた。
平成8年に初めて足を踏み入れて以来、捜査1課での勤務が通算5回、計約13年に上るたたき上げの刑事だ。防犯カメラ捜査やDNA型鑑定など、捜査手法の進化を目の当たりにしてきたが、「刑事の原動力は悪に対する怒り」と語る。
捜査1課への配属後まもなく、ある未解決事件の被害者の遺族を担当することになった。当初は遺族さえも捜査対象として見ざるを得ず、「もう来ないで」と拒絶されたことも。「自分に何ができるのか」と苦悩の日々を過ごした。20年以上の交流を続けた今では、年に1度、墓参りをともにする信頼関係が築けた。「事件で突然愛する人を奪われ、家族は他人が想像できないような地獄に落ちる。そういう痛みが本当にわかる刑事を育てたい」
高校時代はラグビー強豪校でセンターとして活躍し花園にも出場した。警視庁ラグビー部で薫陶を受けた北島忠治・元明治大ラグビー部監督の「前へ」という言葉は、今も生きた教えとなっている。
捜査手法が進化する一方で、自白率が低下している現状に危機感を抱く。
「被害者の最期を知っているのは被疑者だけ。取り調べで事件の真相を語らせるのが刑事の本分だ」(村嶋和樹)