※この記事は、月刊「正論5月号」から転載しました。ご購入はこちらへ。
新型コロナウイルス騒ぎで、「最大の勝者」は皮肉なことに中国になるかもしれない。一連の騒ぎで、中国が支配する国連外交が浮き彫りになったからだ。
読者の中には、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長の「中国寄り」姿勢に驚いた方も多いだろう。今年1月に感染騒動が始まって以来、中国に配慮した発言は目に余った。2月には明らかに世界的拡散になっていたのに、「パンデミックと呼ぶのは時期尚早」「いたずらに不安を煽るべきでない」と言い続けた。
3月11日になってようやく、パンデミック宣言した。感染者が世界で10万人を超える中、あまりに遅すぎるという感は拭えない。すると今度は「欧州がいまや、世界の感染の震源」と語り、不安を増幅した。さらに、ウイルスを「COVID(コビッド)19」と命名し、「武漢ウイルス」「中国肺炎」いう俗称の広がりを阻止しようとした。
パンデミック宣言の直後、中国は「国内の流行ピークは過ぎた」と発表し、習近平国家主席はグテレス国連事務総長と電話で会談した。新華社電によれば、習氏は「中国人民の努力で、世界各国の感染拡大防止のために貴重な時間を稼ぎ、貴重な貢献をした」と自画自賛し、グテレス氏は中国の外国への支援に謝意を示した。武漢からウイルスの拡散が始まったのに、いつの間にか「中国は世界に貢献した。感謝せよ」というストーリーにすり替えてしまった。
中国の「恫喝」
WHOは、基本的人権としての「健康」を最高水準に高めることを目標に掲げ、約七千人の職員を擁する専門家集団である。なぜ、一国に偏向するようになったのか。
WHOのムードを象徴する事件が、1月22、23三日に開かれた緊急委員会だった。ウイルス感染拡大に対し、「緊急事態宣言」を出すか否かが争点だった。
「中国大使の『恫喝』で、見送りが決まったのです」と語るのは、WHOを長年取材するフランス人の医療ジャーナリスト、ポール・バンキムン氏だ。緊急委員会は、各国の専門家15人とアドバイザー6人による非公開会議。議事は紛糾し、異例の2日間に及んだ。いつもなら、委員会の開催前にあらかた合意ができている。