楽天が8日に携帯電話サービスに本格参入する。新型コロナウイルスの感染拡大で都市部の販売店が臨時休業を強いられる逆風下の船出だが、携帯大手3社と比べて格段に安いデータ使い放題プランを打ち出して勝負に出る。ただ、使い放題のサービスエリアは自前の通信網がある場所に限られるため、「第4のキャリア」参入による値下げ競争は当面起こらないとの見立ても多い。エリアの制約をいかに迅速に解消できるかが、競争環境の行方を左右する。
「落胆モバイル」。3月上旬、月額2980円(税別)のデータ通信使い放題プランを三木谷浩史会長兼社長は「衝撃的な価格」と自画自賛したが、条件が明らかになると、ネット上では楽天を落胆と揶揄(やゆ)した表現などで期待外れとの大合唱が起こった。
「脅威かを答えるのはまだ早い」(NTTドコモの吉沢和弘社長)。「使い放題と言っていいのか」(KDDIの高橋誠社長)。3月に携帯大手の首脳が会見した際の楽天への反応も手厳しい。安さは認めるが、「2台目としての需要にとどまる」(ソフトバンク幹部)と、各社が直ちに対抗値下げに動く気配はない。
背景には楽天の制約の大きさがある。基地局を整備した東名阪の都市部を除くほとんどの地域ではKDDI(au)の通信網を借りており、月に利用できるデータ容量は2ギガバイト(ギガは10億)だけ。「2ギガで2980円の料金水準に競争力はない」とみられている。
だが、期待れ一辺倒というわけではない。調査会社MMD研究所が3月に2千人を対象に行った調査では、楽天の新プランを「魅力的に感じる人」は全体の46・8%を占め、半年以内に乗り換えを検討している人に限るとその割合は6割を超えた。
「シンプルで分かりやすい良いプランを出したと思う」。競争促進のため、楽天の参入を後押ししてきた総務省幹部の評価も悪くはない。楽天の特徴は1つのプランに限定した点だ。携帯大手は複数のプランやセット値引きを用意するが割引幅などが複雑で、利用者には分かりにくい。その点では3社の横並びに風穴を開けている。
今後の焦点はデータ使い放題のエリアをどれだけ早く広げられるかだ。総務省には3月末に3432局の基地局を整備する計画を提出していたが、実際は「4400局を超えた」(広報部)といい、ピッチが上がってきた。一方で楽天は試験サービスの期間中に通信障害を数回起こしており、品質の確保も不可欠だ。
楽天は300万人を対象に最初の1年間は月額2980円を無料とするキャンペーンを行う。当初は利用者が殺到したとしても、使い勝手が悪ければ一気に反感を買う恐れもある。利用者本位で事業の足場を早期に築けるかが、携帯3社の寡占を崩すカギを握る。