【シンガポール=森浩】ニュージーランド政府は、世界各国が新型コロナウイルスとの戦いを続ける中、感染拡大抑制に成功したとして「勝利宣言」した。人口約500万人ながら感染者は1500人弱で、米ブルームバーグ通信は「(後世の)歴史家が注目する」と評価する。背景にはアーダン政権の迅速な措置と発信力がありそうだ。
「新型コロナとの戦いに勝利した」
アーダン首相は4月27日の記者会見で、感染拡大が押さえ込めている状況をこう表現した。国内では5月11日時点で1497人が感染または感染疑いと診断され、21人が死亡したが、約9割が回復しており、集中治療室にいる患者はいない。政府は警戒レベルを段階的に引き下げ、14日からは映画館やショッピングモールの営業も再開する。
政府は感染者が10人以下だった3月15日深夜から全入国者に14日間の自主隔離を決定。同25日深夜からは、死者が1人もいない中でロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。ロックダウン前には4段階の警戒レベルを設定し、制限対象などを国民に事前に明確にした。こうした素早い措置が評価されており、公衆衛生に詳しいオタゴ大学のマイケル・ベイカー教授は「他国は段階的に対応を強化させたが、正反対だ」とアーダン氏のリーダーシップを分析する。
同時に、アーダン氏がソーシャルメディア(SNS)で、「自撮り」スタイルで「家にいよう」などと呼びかけ続けたことも称賛された。さらに自身と閣僚の報酬を半年間2割削減すると発表し、国民に寄り添う姿勢を見せた。
地元調査会社のアンケート(4月下旬実施)では、政府の新型コロナ対応を支持する人は87%に達する。住宅供給政策の難航で支持離れが進んでいたアーダン政権だが、信頼を回復した格好だ。
一方で、国境が封鎖されていることで、観光業を中心に国内経済の打撃は大きい。新型コロナの警戒継続を呼びかけるアーダン氏だが、国境封鎖の解除の時期をめぐり難しい対応を迫られそうだ。