漫画などの著作物に甚大な損害をもたらしている「海賊版サイト」への対策が、改正著作権法の成立で強化されることになった。改正の過程では、著作権者の正当な利益を保護しつつ、インターネット利用に過度の萎縮をもたらさないよう、さまざまな安全弁が設けられた。ただ、国会の議論では内容が分かりにくいとの指摘もあった。国民の不安解消のため、さらなる取り組みが欠かせない。
「コロナの影響で別冊少年マガジンが先月1カ月だけ休刊した。原稿料がまるまる一カ月なかったので、連載陣は被害を被っているが、そのコロナよりもさらに甚大なのが漫画海賊版だ」
日本漫画家協会の常務理事で、「ラブひな」などの作品で知られる漫画家の赤松健さんは2日の参院文教科学委員会でこう訴えた。
国内最大規模とされた海賊版サイト「漫画村」による出版物の被害は約3000億円以上との試算がある。漫画村の閉鎖後も、同様のサイトがあるほか、海賊版サイトのURL(アドレス)をまとめて利用者を誘導する「リーチサイト」も存在する。このため、海賊版からのダウンロードを違法とし、リーチサイトも規制する今回の改正は漫画界にとって朗報といえる。
一方で、ネットを利用する一般国民の不安が完全に払拭されたとはいいがたい。例えば、どれが海賊版サイトに当たるのかを見分けられる人はそう多くないだろう。国会の議論でも法案が「分かりにくい」との意見が出ていた。
改正著作権法案が閣議決定された3月10日、文化庁はホームページで、「侵害コンテンツのダウンロード違法化に関するQ&A(基本的考え方)」と題した文書を公表した。文書は、海賊版と知らずにダウンロードした場合は違法とならないことを示すなど、一定程度国民の疑問に答えた内容となっている。しかし、この文書はトップページに掲載されておらず、誰もが簡単にアクセスできる状況とはいいがたい。
国会の議論で、文化庁の今里譲次長は「国会での審議などを踏まえてより詳細な内容を整理したうえで、丁寧な周知などを進めていきたい」と答弁した。法律は成立すれば終わりではない。国民の心配を最大限取り除くため、さらなる説明、情報発信にも工夫が必要だ。(森本昌彦)