商業捕鯨再開から1年 若年層ら消費者の裾野拡大が課題 新型コロナは需要や価格の下押し圧力に


 日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退して約31年ぶりに商業捕鯨を再開してから、7月1日で1年。対象の海域を日本の領海と排他的経済水域(EEZ)に限定し、ミンククジラなど十分な資源量が確認された3種類に絞っている。ただ、若年層を中心に鯨肉へのなじみが薄い消費者が増えており、新型コロナウイルス感染拡大も需要や価格には逆風となっている。供給量の制約がある中で、消費者の裾野を広げる取り組みが課題となっている。

 「海外からはおおむね冷静な反応を得ている。わが国の対応が非常に評価されているということではないか」。江藤拓農林水産相は30日の記者会見で、商業捕鯨の再開から1年がたつことについてこう述べた。

 商業捕鯨を行う海域は日本の領海とEEZとし、科学的データを集める調査捕鯨を続けてきた南極海では実施していない。調査捕鯨では副産物として年間2000~2400トンを得ていたが、商業捕鯨では南極海からの撤退が影響し、「捕獲枠の上限まで獲っても年間1500トン程度」(捕鯨業者)。もともと鯨肉は他の食材に比べると供給量は大幅に限られているが、以前の状況と比べても大きく減るという。

 中高年の間ではかつて家庭や給食でなじみのある鯨肉だが、若い世代は口にした経験がないという人も少なくない。「鯨食」経験者の先細りは避けられない。価格も、必ずしもお手頃とはいえなくなっている。

 こうした中で、鯨肉を食べる人の裾野拡大が求められている。江藤氏は「(鯨肉は)若い人たちには遠い存在だ。いかに鯨肉のおいしさを知ってもらうか、新たな商品開発などを工夫していくかが、これから大切なことになる」と話す。

 足元では、「コロナ禍」も鯨肉の需要や価格の下押し圧力となっている。捕鯨業者によると、小型の捕鯨船を使って沿岸で獲る「小型捕鯨業」の場合、ミンククジラの刺し身で食べる主要部位の赤肉の生肉は、操業を始めた4月は1キロ当たり3000~3500円程度で取引されていたが、5月以降は2000円程度に下落。新型コロナに伴う外食業の営業自粛が直撃したためだ。

 獲ったクジラを捕鯨母船上で解体し処理する「母船式捕鯨」でも、冷凍した鯨肉の赤肉の取引価格は1キロ当たり1000~1500円程度。冷凍食材で出荷調整が可能なため、生肉ほどの悪影響は生じていないが、荷動きは良くないという。

 一方、商業捕鯨と銘打つ以上、捕鯨業者の側も「鯨食文化の維持」にとどまらず、経営的な自立が急がれる。タイミング良く商品を高く売るといった販売上の工夫や、効率的なコスト管理など、捕鯨業者が抱える課題を指摘する声もある。

 政府は令和2年度当初予算で、捕鯨対策として元年度と同額の約51億円を計上している。商業捕鯨は約31年ぶりで過去の知見が失われている事情などを踏まえた激変緩和の補助金的な性格だが、水産庁幹部は「未来永劫続くというものではない」と強調し、早期の自立が急務だとしている。



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