22日に中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会がまとめた令和2年度の地域別最低賃金の報告は引き上げの目安額を示さず、新型コロナウイルスの影響で業績悪化に悩む企業は賃上げペースに猶予が与えられた格好となった。
「未曽有の苦境にある中小企業・小規模事業者の実態を反映した適切な結論だ」。日本商工会議所の三村明夫会頭は22日、目安額を示さなかった報告を評価するコメントを発表した。
経済界が引き上げに慎重だった背景には、感染拡大に伴う企業業績の大幅な悪化がある。帝国データバンクによると、22日段階での新型コロナ関連倒産は364件に達し、この状況で「最低賃金が上がると雇用維持は厳しいと危惧される」(経団連の古賀信行審議員会議長)というのが企業の偽らざる本音だ。
また感染第2波の懸念が消えない中、店舗の時短営業やIT活用による労働需要の減少が進めば、「最低賃金引き上げが、雇用に手を付ける引き金になりかねない」(関係者)。
加えてコロナ禍では、賃上げによる内需の押し上げ効果が限定的との見方もある。大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「外出自粛の影響で、お金を使う機会も減っており、所得を増やすことが、そのまま消費拡大を促すとはいえなくなってきている」とみる。
政府は17日に閣議決定した「骨太方針」で最低賃金について「より早期に全国加重平均1千円になることを目指す」としたが、雇用維持が最優先との考えも示していた。
神田氏は「コロナも感染拡大の初期段階と比べ、どの業界に影響が出るかが分かってきた。恩恵が一律にいきわたる賃上げではなく、範囲を絞り込んで集中的に支援する政策を行うべき時だ」と指摘した。